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行方知れず ページ17

課題研究に使った資料を図書室に戻してきて欲しいと頼まれたのは、放課後のことだった。
「お前レポート終わらすの1番遅かったやろ、最後に使った奴が片付けしぃ」と言われたが、そのほとんどは俺が使っていないものだ。つまり押し付けられただけ。
学級委員にでもやらせとけばいいのに、と思ったが、学級委員は2人共非力そうだし俺が敵役なのかも知れないと思えてきた。クラスでは角名の次に背が高いし、多分ガタイは1番いいし。

それに、図書室に行けば。
あの人に会える。
そう思うと悪いことではない気がした。部活には多少遅れるけれど。


足でドアを開けると、カウンターにいる彼女が顔を上げる。




「……こんちは、」
「こんにちは」



小さく微笑み挨拶を返してくれる。読んでいたらしい本を伏せ、俺の手に抱えられた本たちを見て「ああ」と呟いた。



「課題研究で使っていた本ですね」
「返すの遅れてすんません、だそうです」
「いえ、問題ありませんよ」



カウンターに本を置くと、それらをテキパキと処理していく。返却作業をしているのだろう。
見るとはなしにそれを眺めていると、ふと彼女が顔を上げた。

必然的に、目が合う。





「なんだか、久しぶりな気がしますね」
「今朝会ったやないですか」
「そうですけど。侑くんとばかりで、治くんとは話さなかったので」



確かに、それはそうだけど。
俺は侑に付き合ってやる必要はないし、この人が好きなわけでもない、と思いたい。先生のことはよく知らないし。



「……先生は、好きってなんやと思いますか」



他意はなかった。
ただ、先生のような人は、どんな価値観で生きているのかわからなかったから。

彼女のことが好きだという確信が欲しかったわけではない。決して。





「好きというのは、相手を大事にしたいということ」
「……また名言ですか」
「よくわかりましたね、有川浩です。治くんは好きな人がいるんですか?」
「は」



有川浩なんて知らんな、なんて思っていたら、予想外の質問が飛んできた。


俺に好きな人がいるか、なんて。
ただの興味本位だろうか。彼女のことなら大いに有り得る。

でも、もし。

それが興味なんかじゃなくて、きちんと考えた上でされた質問だとしたら。
____いや、だとしたらなんだというのだ。
ありえない。考えるのも不毛だ。





「すみません。私とするような会話ではありませんでしたね」



その通りだな、と思った。

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作者名:凛久 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/2594um/  
作成日時:2019年2月14日 17時

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