私の推しは冷めています。【桃】

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お店の名前を訊いてどんなお店か見れば、高級焼肉店だった。なんでもいいと言ったけど値段の書いてない焼肉店とか恐ろしい。全室個室で、芸能人御用達だとか。

　
「いらっしゃいませ。ご予約のお名前は？」


　お店に入るときっちりと正装した男性が出てきてそれだけで仕切りが高そうと緊張した。「さ、さくまです」と名乗れば、にっこりと微笑んで「佐久間様ですね。こちらへどうぞ」と案内される。
　どうやら私の方が早かったみたいで店員さんに先に飲み物を頼むかと訊かれたけど後でと断った。

　あー、緊張してきた。一度は会っているのに、でもライブ会場で輝いていた彼を見て本当にアイドルなんだって再認識させられたせいで余計にドキドキするんだ。


「失礼します。お連れの方がお見えになりました」
「は、はいっ」


　時間にしてはそんなに待っていないと思う。部屋に入ってからずっと正座していたけど、さらにビシッと正した時、スーッと扉が開いた＿＿と同時に私の足にビリビリと痺れが広がっていき、扉が開いたとほぼ同時に「キャッ、」と前に崩れて手をついてしまう。


「お、お客様大丈夫ですかッ？」


　扉を開けたのは店員さんだったのでびっくりさせて申し訳なく思いつつ、チラリとその背後から感じた視線に顔を上げたら、「え？」とみっともない姿のままの私をニコニコと微笑み見下ろしている人が居た。


「あ、阿部ちゃん……っ、すみませんっ」


　驚きすぎて普段の呼び方で呼んでしまって慌てて謝れば、阿部さんは「ふふ、大丈夫ですよ。それより大丈夫ですか？」と手を差し伸べてくれた。うわー優しい。テレビで見たイメージのまんまだった。あれでもなんで阿部さん？


「あ、佐久間なにしてんの？ 早くおいでよ」


　その名前にピクンっとまた背筋が伸びて、痺れをもろともせずにもう一度正座した。それをクスクスと楽しそうに見て笑う阿部さん。
　は、恥ずかしい…………


「あ、佐久間君……」


　黒のタートルネックにコート、眼鏡をした綺麗めなコーディネートの佐久間君が座敷に上がって来た途端、ぎゅっと心臓が鷲掴みにされたようだった。息が苦しい。かっこよすぎて……直視できない。


「こ、こんばんは！」
「こんばんは。阿部ちゃんコート」
「うん、ありがとう」


　このお店は上着類は預かってくれるみたいで、奥に居た阿部さんからコートを受け取って自らの分と一緒に店員さんに渡した佐久間君。
　

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