in the summer３【J.M】 (ページ10)

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「楽しかったです、今日はありがとうございました」

ぺこりとお辞儀をして、Aはタクシーに乗り込む櫻井を見送る。

「こちらこそ！じゃ、また！おやすみ！」

わりと酔っぱらっているくせに、爽やかな笑顔を見せて手を振る櫻井。
気を付けてよーと二宮が声を掛けてから、振り返る。

「さて、潤くんたちはどうすんの」

「今日は俺んち帰るよ」

「じゃあまたね～」

そう言ってタクシー乗り場から歩き出す二宮に、「帰んねぇの？」と松本が声を掛ける。
いつもならすぐに自宅に直行する彼が珍しいこともあるもんだと思ったのだ。

「なんかそっちで後輩たちが飲んでるみたいなんで顔出してくんの」
「お前まさか」
「奢ってもらっちゃおうかな～って」
「‥‥ニノだから許される行動だな。じゃあまぁよろしく言っといて」
「ん」

そう言って片手をあげて猫背気味に去っていく背中。
雑踏に消えていく二宮を見送って、松本はAに向き直った。

「じゃあ帰りますか」
「潤の家へ行くの？」
「嫌だった？」
「嬉しいし楽しみだけど、着替えとかなんにもないわよ。お泊りでしょう？」
「そういやそうだな。一回Aんとこ寄ってくか」
「ん！ところで、こんな堂々とタクシーに乗り込んで大丈夫なの？」
「今日は大丈夫、一応俺らも確認してるから。行くか」
「うん」

運転手にまずはAの住んでいるマンションを告げて、その後松本は自宅マンションを伝える。
そこまで近くないが、車でなら15分くらいかなとあたりをつけて、Aはお酒が入ってぼんやりする頭で車窓から夜の東京の街並みを眺めた。
隣に座る恋人は、何も言わずにぎゅっと手を握って指を絡めてくるので、視線は反らしたままAはその指を絡め返す。
途中からは指相撲のようになってしまって、色気もへったくれもないなと笑ってしまうくらいに、二人は嬉しい気持ちでいっぱいだった。
10分で戻ってくるね！と部屋に戻っていくAを見つめて、今夜はどうやって過ごそうかなと考える松本は内心にやけそうになるのを必死に抑えていた。

松本の自宅に向かうタクシーの中では、先ほどとは打って変わってAは松本に寄り添っている。
彼に肩を抱かれて、くっついた右腕と左腕は指先までぴったりと重なって、言葉は無くても二人の間に流れる空気は物凄く甘ったるいものになっていた。
タクシーの運転手さんごめんなさい、とAは胸の中で手を合わせたほどに。