in the summer３【J.M】 (ページ20)

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豪華な部屋の装いも、大都会の夜景も、この人の前では何の意味もなさない。

キングサイズのベッドに沈んで呼吸を整えながら、自分を組み敷いた男の色っぽく上下する喉を見上げてAはもう一度キスをねだった。
裸の肌は目に痛いくらいで、調光を落とした室内には二人分の荒い呼吸だけが響いている。
ちゅむっとキスをしてから、ずるっと出ていく質量の喪失感にため息がでる。
それすら甘く色づいて、松本が片眉を上げた。

「足りない？」
「ふふっ、大丈夫。潤こそ」
「んー、休憩」
「ほんと元気ね‥‥あ、ねぇさっきの」

情事後のけだるさに身体を預けたまま、Aはさっき聞きそびれたことを思い出した。
ん？と視線だけ寄こした松本の方に身体を向けて、つい笑みを浮かべて口を開く。

「‥なに」

何かを感じ取ったのかちょっと警戒する様子の松本にまた笑ってしまう。

「潤もいつでもワンチャン狙ってるの？」

「‥‥あなたね」

「ハワイでもワンチャン狙ってたもんね？」

「A」

「はい」

これ以上からかうのはダメよねと、言い聞かせるように呼ばれた名前に素直に応えて口を紡ぐ。
すると、伸ばされた松本の指先が頬を撫でていく。

「俺はAのことしか狙ってねぇよ、あの日からずっと」

「っ‥‥恥ずかしい」

「今更。再会して散々思い知っただろ、俺がどんな男か。どれだけAに会いたかったか」

「そんなの、私も同じだもん‥‥」

「かーわいい」

抱き寄せられて、ちょっと上を向いた松本に乗り上げるようにして密着する。
すぐにキスをねだられて応えているうちに、一度熱くなった体はその温度を取り戻していく。
休憩が短すぎない？と笑うと、俺も必死なの、なんて返されて言葉に詰まる。

(私だって、必死‥‥)

会えなかった日々を埋めるようにキスをしても、身体を重ねても、どんどんどんどん欲しくなる。欲張りになる。
その先の未来を考えられないのも本当のなのに、松本を目の前にすると歯止めが利かない。
こんな自分が、自分の中にいるなんて。

恋愛にあまり興味が無くて、結婚願望も無くて、今まで付き合った数人の恋人に申し訳ないくらい仕事ばっかりしてきた自分が。
こんなに恋に溺れるなんて。

さまよいだした松本の指先の温度を際どい場所に感じながら、Aも彼の身体に手を這わす。
シーツの海の溺れながら、沈みながら、Aはふとハワイの夜を思い出した。

お互いを何も知らなくても満たされていた、あの楽園を。