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「Aが他の男と楽しそうに飲んでるの見ても、酒旨くねぇし」
「‥‥」
「んだよ」
拗ねたような口調と視線に、思わず口元が緩む。
途端、更にむっとした松本が膝の上にあったAの手を取って、身体を寄せてきた。
「ちょ、大丈夫なの？ 外でこんな‥」
「大丈夫だよ‥‥つうかニヤけすぎ」
「だって、ヤキモチ？ ヤキモチやいてくれたの？」
笑顔を浮かべるAに毒気抜かれた松本は「そーですぅ」と年甲斐もなく唇を突き出した。
その顔にまた笑って、Aは「巽さんとはほんとに何でもないんだよ」と話を始めた。
「前も言ったけど、アメリカで学生やってる頃に今の会社の親会社に居た巽さんに拾ってもらって、そこからの付き合いだよ。年もだいぶ上だし、年の離れた兄って感じ。もう家庭もある人だし、そもそも私が巽さんに興味が無いの。あったとして、向こうも困るだろうけど」
「ふーん」
頷きながらもどこか納得してない顔をした松本。
Aは苦笑した。
「心配性だなぁ、もしかして私と巽さんの間に何かあるって思ってるの？」
「距離感が近かった」
「巽さん元々そう言う人だもん、私にだけじゃないよ」
「その方がヤバくない？ 家庭がある人なんでしょ」
「うーん、もう何年もまともに会ってなかったけど、向こうに居た頃はプレイボーイだったよ」
「アメリカ時代にもう結婚してたの？」
「戻ってからだよ。式に呼ばれてたけど私は忙しくて出席できなかった」
「ふーん」
カラコロ。
ほんのちょっと溶けた氷がグラスの中で踊って、その音に耳を澄ます。
ほんの少し逡巡した後、Aは松本の方に身体ごと向き合った。
「あのね、なんにもないってことは大前提で、私は今も昔も巽さんに興味が無いってことも大前提で言うけど」
「なに、なんかあんの」
「昔、巽さんが日本に帰国する時に、プロポーズされたことがあって」
「‥‥は？」
瞬間、松本の気配がぐんっと下がったことに、Aは内心で悲鳴を上げた。
短いながらも濃密に過ごしたここ数週間の間に、松本が相当甘えん坊でわりと独占欲も強めだとAは感じていた。
勿論それは、悶々と過ごした一年があったからこそ余計だろうが、それでも。
「プロポーズって何それ、なんもないって、あんじゃん」
「だから、付き合ったことも無いし、その時初めて巽さんの気持ちを知ったくらいで」
「‥‥」
「帰国する気も無かったから断ったし、そもそもそうじゃなくても頷かなかったよ」
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作者名：お塩
| 作成日時：2021年6月28日 2時
