in the summer３【J.M】 (ページ16)

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「本当に可愛らしいですね。目元は巽さんにそっくりですけど、口元？は奥様に似てらっしゃいますね」

当時呼ばれた結婚式には出席できなかった。仕事が忙しすぎて。
送られてきた写真の向こう、幸せそうな新郎新婦の顔をなんとか思い出して言葉にすれば、巽が一瞬何か言いよどんだ。

「巽さん？」

「‥あ、いや。そうだろ、目元は俺そっくりなんだよ、可愛いよ」

「子供かぁ‥‥」

「‥‥今の相手と結婚を考えているのかい？」

突っ込んだその言葉に対する答えをAは持ち合わせていなかった。
曖昧に微笑んで、その場を濁す。

松本と結婚というのは、どうにも想像がつかない。
元々Aにはそこまでの結婚願望はない。今のまま一緒に居られたら最高だし、その先に結婚や出産といった行事があったとしてそれはそれで楽しそうだとは思う。
けれど相手は、活動休止をしているとは言えど俳優として活躍しているトップアイドルの一人で、そこに恋愛ごとのスキャンダルなどもっての他だと思えるのだ。

「まだそんな仲じゃないのかな？」

「そこはまぁ追々って感じです」

「そうか。じゃあまだまだ君も独身が続きそうだね。でも他の男が放っておかないんじゃないのかな」

「そんなことないです。仕事ばっかりで恋人なんて作ってる暇も無かったですし‥‥今は十分幸せです」

それは本心だった。
今後松本との関係がどうなっていこうと、今はとにかく幸せだし、一年間も何も知らないまま過ごしていた頃に比べれば天と地の差があるとAは思っている。
呼べばすぐに答えが来る距離で、手を伸ばせば触れられる距離で、目と目が合う距離で、共に過ごせるなんて想像もしていなかったから。

Aの横顔をじっと見つめていた巽が苦笑する。

「本当に幸せそうな顔をするね。安心したよ、君は向こうに居た頃本当に仕事にしか興味が無いようだったから」

「必死だったって言うのもありますけどね」

「懐かしいな。今思えばあの頃は本当に充実していたと感じるよ」

意味深なセリフに、けれどAは頷くだけにした。
巽とこうやってじっくり話をするのは久しぶりだったが、どこか雰囲気が違うような気がするのはお互いに歳をとったからだろうか。
あの頃。右も左もわからなかったアメリカでAの才能を見出して職へのチャンスを与えてくれた巽にAは大きな恩を感じている。
只の上司と言うよりは、年の離れた兄のような感覚もあった。