in the summer３【J.M】 (ページ15)

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巽に案内されたバーは、有名ホテル内にあった。
自分が年若い女の子だったら警戒心も無くワクワクしていそうだし、20代後半ならこの後の展開を警戒したかもしれない。
Aはそんなことを思って、巽とグラスを交わした。

「しかし君とこんな風にサシで飲むのはいつぶりだ？」

「そうですね、巽さんが日本に帰られる前ですからもう8年9年とかその位になるんじゃないですか？」

「もうそんなになるのか、俺もおっさんになるわけだ」

「まだまだお若いですよ」

「君は随分大人の女性になったね」

「そうですか？もういい年です」

巽の言葉はいつも相手を喜ばせるためのものだとAは知っている。
見た目が若くダンディな彼は、二人の娘を持つ父親だが、本当に女の噂に事欠かない人だった。
離れてだいぶ経つが、今もそうなんだろうなぁと勝手に想像する。
彼女には関係のない話だが。

「そう言えば俺と一緒に帰国した木崎を覚えているか？」
「木崎さん、はい覚えてます」
「あいつももう結婚して今じゃ三児の父だぞ」
「そうなんですか？」
「本社に居るから、また今度挨拶に連れていくよ」
「楽しみにしています」

当たり障りなく昔の知人の話をして、できる範囲での業務の話をして、アメリカに居た頃のメンバーの近況を交わして、話はA本人のことになった。

「それで？君がさっき濁した良い縁ってのを教えてくれるんだろうな？」

おっと、とAは思う。まさか覚えていたとはという気持ちと、そんなこと気になるのかという気持ちが、彼女に微妙な表情を作らせた。

「あまり触れたくない話題かな？」

触れたくないわけではないが、Aの相手が相手なだけにどこまで話して良いのか解らない部分でもある。

「いえ、まぁ向こうで仕事を辞めた後一年ほどぶらぶらしてまして」

「そう言えばアメリカ中を見て回ったとか言っていたけど、その時に？」

「はい、ちょっと出会いがあって」

「向こうの人かい？」

「こっちです。ちょっと離れてましたけど、私が戻ってからはまぁ、それなりに」

「そうか‥」

三杯目のカクテルを飲み干して、Aは巽に呼び掛けた。

「私の話はもういいでしょ、巽さん。奥様とお子さんはお元気ですか？」

10年近く前帰国と共に結婚した巽は晩婚の類だった。
上の娘は確かまだ8歳位だったはずで、写真で見せてもらった愛らしい笑顔を思い出してAはにっこりした。

「ああ、見るかい？」

スマホの画面には愛らしい二人の子供。