in the summer３【J.M】 (ページ14)

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「しかし大卒で取った君が、こっちで上席係長になるなんてなぁ」
「取り計らっていただいて感謝しています。ただ一年半近く離れていましたので、お役に立てるかどうか」
「おいおいそんなにか！随分羽を伸ばしたんだな」
「それはもう。おかげさまで良い縁も沢山ありました」
「おっ、意味深だな？」
そう言って片眉を上げる仕草は日本人とは思えない。
相変わらずだなとAは肩を竦めた。

巽は結婚して妻も子供もいるが、いつも周囲に女性の影が見え隠れする男だった。
Aがもしも彼に恋心を抱くことがあったら、それはきっと切ないものだったかもしれない。

「まぁそこら辺の話は置いといてください。今日は案内してくださるんですよね」

「ああ、9月から君が活躍する場だ。メンバーも紹介するから頼むよ」

「はいっ」

巽の一歩後ろを歩きながら、久しぶりの仕事の感覚に言い知れぬ高揚感を覚えたAだった。

(ん？通知‥)
午後5時過ぎ。撮影の合間の待ち時間に控室で書類に目を通していた松本は、ふと見たスマホが通知を知らせる点滅をしていることに気が付いた。

「‥‥はぁ？」

内容に目を通して思わず文句がついて出る。
Aからのそれは、上司と飲みに行くというものだった。
彼女を日本に呼び寄せた張本人に対して、呼んでくれてありがとうと言う気持ちもあれば、馴れ馴れしくすんなよと言う気持ちもある。
如何せん松本が知りえない十数年前のAを知っていて、今日までずっと仕事上とは言え関りがある相手に嫉妬めいた感情が浮かぶのは仕方が無いが格好悪い気もする。

(22時くらいにはそっち行きたいって‥‥まぁ俺もその前には終わってっし)

束縛彼氏になりたいわけではないが、心配は心配だ。
だがAに限ってという気持ちもある。
ハワイで出会った時、確かに二人はあんな始まり方をした。けれど、実際にAと数日過ごして解ったことは、意外と考え方が古風で身持ちが堅いということだ。
ジョークも厳しいツッコミも飛び交うが、彼女の根底にあるどこかお堅い感じが松本の心を絶妙にくすぐってくる。

了解と言う返事と、ちゃんと迷子にならずに帰って来いよと送ると、すぐに変な顔をした猫のスタンプが送り返されてきた。

「なんだよ」

思わず笑いながら、どんな顔してこんな奇妙なスタンプを送ったのか聞きたくてしょうがない気持ちになった。

「松本さん、出番です」

「うっし、今行きます」

集中集中！と呟いて、松本は立ち上がった。