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沈黙が部屋に流れる。
まさか先生そんな電話をお兄ちゃんにするとは。
まぁ確かに、考えてみれば学校としても国立大学への受験と合格の実績があるのは嬉しい話だというのは解る。
それに、R大は環境的にも学部的にも私がやりたいことがちゃんとある。
ただ、ただ遠い。飛行機の距離。
そんな簡単には帰ってこれない、距離。
いろんなものが必要になって、自宅から通うよりもお金だってかかる。その心配はいらないって言うのはありがたいことに解っているけど。
でも。
「‥‥先生、そんな電話してきたんだ？でも、私受けないよ」
「A」
「県大十分に調べてここが良いって決めたんだから」
笑う。にこって。
だけどお兄ちゃんの表情は険しかった。
「A、俺はさ、お前に後悔してほしくねーよ」
「後悔なんて」
「後になって考えたって間に合わないことって世の中いっぱいあんだよ。Aの目の前に手を伸ばせば届くかも知んねぇもっといいものがあるなら、そっち頑張ってほしいけどなぁ」
最後はお兄ちゃん自身の呟きみたいになっていたけど、言いたいことは解った。
解ってるよ、間に合わないことがあるって。
どうしたって届かないことがあるって。
嫌って程。
そして、取り返しがつかないことだって、山ほどあるって。
散々。私は知ってるよ。
「ありがとお兄ちゃん。でも、私良いの」
「‥‥そーか」
お兄ちゃんが視線を落としたまま、何度か頷いた。
まるで自分に言い聞かせるみたいに。
「県大一本で絞って、終わったらバイトとかしたいし」
「うん、そーか、そっか‥‥悪ぃな、変な話して」
「ううん‥‥あ、じゃあ私お風呂行くね」
「おー。風呂で寝んなよ？」
「寝ないよ」
お兄ちゃんが進路の話で私に意見を言ったのは、初めてだった。
内心なにかお説教かなってドキドキしてたから拍子抜けした気分。
まさか担任め、お兄ちゃんに連絡してくるとは。
明日もう一回話しないとなって思いながら、私は支度をして脱衣所に向かった。
このお兄ちゃんとの会話があんなことに繋がるなんて思いもせずに。
月曜から木曜まであったテスト期間が終わって、金曜日から早い教科は順次返却されて、週末をはさんだ火曜日。
生物のテストも返却された。
いつもと同じ前髪で目元を隠したもさっとした松本先生が「頑張りましたね」って満点に近い私の答案を返してくれた。
そう言えば、テストが終わったら話をしようって言われてたなって思い出す。
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作者名：お塩
| 作成日時：2021年6月7日 0時
