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「美味しかった、ご馳走様お兄ちゃん」
久しぶりにお兄ちゃんとダイニングテーブルを囲んだ。
あったかい食事と言うだけで気持ちがほわほわする。
ささくれ立っていた心がちょっとだけ凪いだよう。
「ん、良かった」
「私が洗うよ」
「じゃあコーヒーでも淹れるか。Aは紅茶？」
「うん、ありがとう」
お兄ちゃんとも普通に話せてる。
だけどこの食器を洗い終えたら、お兄ちゃんが言っていた『話』をしないといけない。
なんなんだろう。
想像がつくとしたら最近の私の態度だけだ。
でも、正直ほんの半年前と何が違うんだろう。あの頃の私もきっとこんな感じだったのに。
変わったとしたら、それはきっとマツジュンさんのおかげだと、心のどこかで解っている。
強引なのに優しくて、時に上手に距離を取って。
強い視線と裏腹に、繊細に私を見つめていた人。
(まぁ相当イイ性格なんだろうけど‥‥)
ここ一連のマツジュンさんの言動を思い出すと、ムカつくような苛立つような何とも言えない心地になる。
同時に、あの日の準備室を思い出していちいち胸が軋む。
私をプラスに変えたのがマツジュンさんなら、
またマイナスに引き戻しているのもマツジュンさんが原因だ。
振り回されるなんて嫌なのに。
どんな形であれ、他人の私に向けられる感情に。
あんなに傷ついたのに、どうして私はまた他人に期待するんだろう。
「A」
「っあ、うん、なに？」
ぼうっと考え込んでいたから、お兄ちゃんが私をじっと見ていることに気が付かなかった。
顔を上げたらしっかり目が合って、お兄ちゃんのいつもどこかふにゃっと柔らかい瞳に強い意志を見つけた。
そうだ、話。
「勉強、頑張ってるんだな」
「え？う、うんまぁそりゃね」
何を言われるのか身構えていた私は拍子抜けする。
お兄ちゃんも視線は強いのに口調は柔らかい。
「テストもかなり良いみたいじゃん」
「え、なんで」
まだ答案は帰ってきていない。早い教科は明日から返却されるけど、私自身も詳しい結果は知らないのに。
「電話あった、担任の先生から」
ドキッとする。
「そんで勧められたよ、お兄さんからもぜひ説得してくれないかって話も」
なにを、なんて聞かなくても。
「A、志望校良いのか本当に。先生は国立のR大もいけるって太鼓判押してたぞ」
「それは」
「兄ちゃんとしてはお前にたくさんの選択肢を持ってほしいってのがある」
「‥‥」
「受けてみねーの？」
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作者名：お塩
| 作成日時：2021年6月7日 0時
