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大きな体をちょっと丸めたような。
落ち込んだ顔にドキリとする。
「あっ、あの大丈夫です！怒ったわけじゃなくて、あの、困ったっていうか恥ずかしかったんです」
「ごめんね、つい。大野さんの妹ってなんか俺らみんなの妹みたいで」
俺妹居ないんだけどね、何言ってんだろ。
そう付け足して笑う。
その表情に、言葉に、いちいち痛む胸を取り外してしまいたい。
厄介な感情だ、恋なんて。
この人は私のことを妹としか思ってないんだって、解っててもつらい。
「大丈夫です、でも‥‥次からはやめてください」
近くなればなるほど、バレてしまうかもしれない。
隠すって決めたマツジュンさんへの想いが、見えてしまうかもしれない。
だったら触れないで。
今までよりももっと距離を開けてほしい。
「‥‥ごめん、でも」
「マツジュンさん？」
言いかけて黙る。
なんだろうって顔を上げれば、まっすぐに見つめる瞳と視線が交わる。
あの海の時とはまた違う、何か切なく揺れる瞳。その視線が私を捉えていることが恥ずかしくて、また頬が熱くなる。
「あの」
「Aちゃんのその目、ヤバいんだよね」
困ったように首の後ろを撫でて、ちょっとだけ視線が落ちる。
マツジュンさんの言葉の意味が解らなくて。
「え」
「なんだろう、触れたくなるし、隠したくなる」
「――え」
「そんな目、向けないって約束してくれるならもう触らないよ」
どんな、目、してるの。
私。
そんなの解らないよ。
無茶苦茶なことを言う目の前のこの人。
この視線、男の人だ。
私の知らない、男の人だ。
白くてきれいな指。
大きな手のひら。
微かな香水の香り。
私の頬を撫でて、そっと離れていく指先。
燃えるように熱くて、呼吸を忘れてしまう。
「Aちゃんがさ、俺の持ってくるケーキに餌付けされてくれればいいのにって、毎回思ってたよ」
「え」
「本当はチーズケーキ以外も食べたかったんでしょ？」
「ま、マツジュンさん」
「Aちゃん俺の事、好き？」
脳のキャパシティを超えた。
完全に今の私じゃ無理だって解った。
マツジュンさんは松本先生だけど松本先生じゃなくて。
お兄ちゃんの友達だけど、そうじゃなくて。
私に気やすいイケメンお兄ちゃんだと思ってたけど、そうじゃなかったんだ。
女の人にも、恋にも慣れてる、大人の男の人なんだ。
初めて、松本潤っていう一個人に触れた私は、夏休みを前に一回目の失恋をした。
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作者名：お塩
| 作成日時：2021年6月7日 0時
