【学パロ】君に胸キュン２【詰め合わせ】(J.M) (ページ3)

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「‥‥はー‥‥」
一階の奥の扉から庭に出て、向かった先は温室。
10畳あるそこは、お父さんが好きだった場所。今では私が過ごす場所。
ここから見える景色は、温室の分厚いビニールを通して別世界に見える。
私だけが、別世界にいるみたい。

毎日毎日つまらないの。
心がずーっとなにか訴えてるけど、わからないの。

お兄ちゃんみたいに笑えないよ。

有名な園芸家だったお父さんと、こちらも有名なバイオリニストだったお母さん。
いつでも仲が良い夫婦で、お父さんとお兄ちゃん、お父さんと私、お母さんとお兄ちゃん、お母さんと私、そしてお兄ちゃんと私は、本当にいい家族って感じだった。
誰が見ても幸せだねって言われて、そのたびに胸がほんわかして、恥ずかしいようなでもちょっと嫌というわけじゃないけど変な気分になったりした。
今じゃその気持ちすら懐かしい。

温室から見上げた母屋の三階は、お兄ちゃんのアトリエ。
若いのにわりと売れてる画家でアーティストのお兄ちゃんの、あそこがお城。
二人が亡くなってから私は一度も足を入れていないあの部屋の窓から、お兄ちゃんが中庭に手を降るのを見るのが好きだった。
お父さんとお母さんと一緒に、手を降り返すのが好きだった。
今じゃもう絶対に取り戻せない風景に胸が痛む。

ふと、窓側に誰か立ったのに気がついた。

お兄ちゃん？
じゃ、ない。
あの部屋にお兄ちゃんが人をいれるのは滅多いない。それこそ、この家に遊びに来るいつものお兄さんたちくらいしか。

「、あ」

ビニールに隔てられてぼやけた視界に、マツジュンさんが見えた。
私を見下ろすその目元ははっきり見えなかったけど、なにか呟いた。
しばらく合ってるようで合ってない視線が交錯したあと、彼はふいと室内に戻っていった。

「なんだったの」

ビニール越しでもわかる、鋭い視線に、呼吸が止まるかと思った。

ケーキはチーズケーキを選んだ。
一番好き。
お兄ちゃんが笑った。
「やっぱAはそれが好きか」
「うん」
「マツジュンに言っといたんだよ、そしたらやっぱり入れてくれたわ、アイツはいい男だよ」
「ふーん」
だからなに？と思ったけど、お兄ちゃんがこんなに手放しで誉めるのも珍しくてその横顔をぼんやり見つめてしまった。

「マツジュンさんって初めて見た」
「そう？何度か来たことあっけどなぁ」
「会ったことない。すごくイケメンだね」
「だろ？」
嬉しそうに笑うお兄ちゃんに、あの人性格歪んでそう、とは言わなかった。