【学パロ】君に胸キュン２【詰め合わせ】(J.M) (ページ15)

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「海だー！」

「海だね」

「‥‥海ですね」

ほら、やっぱりこうなった。
しかもなんで海に行きたかった私じゃなくて、お兄ちゃんが一番に砂浜に向かうの。
そりゃ私はそんなテンションじゃなくなっちゃったんだけどさ。

私が海に行くことをサラッとバラしたお兄ちゃんが、アロハシャツと短パンにカンカン帽を手にしていた時点で分かりきってた。
この人一緒に来る気だなって。
まぁお兄ちゃんは私よりも海が好きで、船が好きで、釣りが好きで。
最近はめっきり行かなくなったけど、以前は絵のお仕事の目途が付けば頻繁に船を予約して海釣りに出かけてたくらいだから。

そんなことすらお兄ちゃんに制限させてる自分が、また悲しくて悔しくなる。
もっと休日だってお兄ちゃんが自由に過ごしてくれれば良いのに。

「眩しいぃぃ」
梅雨の合間の青空はすでに夏の勢力が猛威を振るっていて、頭にタオルを乗せてキャップを被っても、砂浜からの照り返しとキラキラ輝く水面の反射が目に痛いくらい。
「っていうか、あっちぃ」
「マツジュンさん日焼け止め塗りました？」
心配になってもう一度両腕と顔に塗り捲る私を見て、マツジュンさんが顔をしかめた。
「いや、ちょっともらっていい？」
「はいどうぞ」
両の掌を向けるマツジュンさんに、ぶにゅっと日焼け止めを押し出す。
「うっわ、多くね？」
「案外足りないですよ。マツジュンさん色白だし顔にもちゃんと塗ってくださいね」
「うん」
うんって返事が私より10歳上とは思えないあどけなさで、思わず笑ってしまった。
「ん？どした」
「どうもしません。‥‥運転ありがとうございます」
「大野さんが行くって言ったのにあの人運転する気なかったもんなぁ」
サングラス越しでもマツジュンさんが目を細めているのがなんとなく解った。
一人波打ち際で波と遊んでるお兄ちゃんの元へ向かう。
おーいって手を振って、本当に海が似合う人。
海みたいな人。

それから。
お兄ちゃんは持ってきたスケッチブックを手に、私が渡した日傘を差して砂浜に座りこんで何かをずっと描いていた。
マツジュンさんは暫くお兄ちゃんの近くにいたけれど、波打ち際に来てみたり、ぼんやり海を見つめていたりしてた。

私は。
私はずっと海を見ていた。
歩きながら、立ち止まって、私がずっと憧れてやまない海を見ていた。
サンダルが濡れるのも構わずに。

足元に寄せては返す波と、お腹の底に響くような波の音。

私の中の淀んだ澱を攫っていってほしくて。