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玄関開けて、リビングに顔を出せば翔が「おかえり」って言ってくれた。
お母さんも珍しく早く帰ってきてて、おいしそうなご飯のにおいがする。
でも、今口を開けたら大泣きしちゃうのが解ってたから、「体調悪いから寝るね」って必死でそれだけ言いながら逃げるように部屋に行った。
階段上りながら私泣いてた。
馬鹿みたいに涙がボロボロ溢れてきて止まんなくって、自分の部屋のベッドに潜り込んで枕に顔を押し付けて泣いた。
途中で多分足音からして翔が部屋の前まで来たっぽいけど、何かを察してまた階段を下りてく音が聞こえた。
ありがと、ごめんね、今は一人になりたいの。
そんで、思いっきり泣きたいの。
いつの間にか眠ってた。
スマホの画面がまぶしすぎる真っ暗な室内。
AM2：30の表示にぎょっとする。
いくつかラインの通知があって、その中に一番見たくない名前もあって、スマホを床に落とした。
ゴトンって音がやけに響いて、私の心が落下したような気分になった。
「‥‥おなか減った」
泣いて寝て、そういえば半日以上何も食べてないじゃん！って思い出す。
すると途端に、こんな時なのにグーグー主張する腹の虫さんめ。
そうっと、リビングへ向かった。
「‥‥おいしい‥‥」
お湯で混ぜるだけのカップスープが何種類もあって、お気に入りのジャガイモのポタージュを口に運ぶ。
キッチンの明かりだけつけた暗い室内で、ダイニングチェアに座り込んで、時計のカチコチって秒針の音を聞いていたら、足音。
「こんな時間に食うと太るぞ」
「空腹すぎて全部消化されちゃうよ」
「馬鹿、全部吸収されんだよ」
「わあ‥‥」
それはやだなぁって顔を伏せた私の、横に翔。
なんでかな、きっとばれてるよね。泣いてたのだって知ってるよね、部屋の前まで来てたもんね。
それでも翔は何も訊かない。
私が喋るまで、じっと待っててくれる。
いつも私が頼りにしてるお兄ちゃんは、こんな時でも私の心を拾い上げてくれる。
「‥‥あのね、私ね‥‥」
「うん」
「‥‥‥潤がね‥‥」
「うん」
その名前を口にするだけで声が震えた。
喉の奥がひりひりして、あんなに泣いたのにまた涙が浮かんできて、ぐっと唇を噛み締めたら何も言えなくなっちゃった。
翔の手が私の頭をぽんぽんって叩く。
その大きさもあったかさも威力も、潤と全然違って。
思い出してもっと泣けてきちゃってしょうがなかった。
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作者名：お塩
| 作成日時：2021年5月28日 16時
