小話２−６ ページ48
「免許の講習料は親が出してくれるから、もうちょっとしたら取りに行くけど、車は自分で買えって言われたから」
「そーなんだ、大学車で通うの？」
「最初は通ってお金貯める予定。車も最初は中古の軽で良いから」
そう言ってAは俺の方を見た。
くりんっとした目が、ちょっと上がった口角が、ドキリとするほど大人びて。
たった二個上なだけなのに、やっぱり同学年の女と全然違う顔をする。
「潤とさ、離れちゃうじゃん」
「うん」
「だからたまには高校に迎えに行こうかなって」
「車で？」
「そう！こんな彼女がいるんだぞー！って牽制？」
そう言ってけらけら笑う。
反則級に可愛い理由に俺の胸がキュンってなる。乙女か。
「‥‥在校生はみんな知ってるだろ」
「新入生は知らないし、物理的な距離は結構大きな問題だもん。私は‥‥」
「ん？」
「潤と一緒にいる努力を怠りたくないから」
その一言で、俺がまたAに恋すること、知っているんだろうか。
何度も何度も恋に落ちて、俺マジで一生Aから離れられそうもない。
そのつもりではいるけれど。
「大学デビューのための車だよ、助手席は潤のためだけに開けとくよ」
「男前すぎねぇ？」
「車で行けば、飲まない理由にもなるでしょ？」
「‥‥まぁたまには、どうぞ」
「ふふふ。あ。あーでも助手席さ、カズは許して」
「えー、妬くかも」
「んっかわいいっ」
「おいやめろ」
わしゃわしゃ頭を撫でてくる細い腕を掴む。その指先一つまでいとおしくって、キスを落とす。
くすぐったそうに笑ったAの顔、声、全部をずっと見つめていたい。
「二年経ったらすぐ追いつくから」
「待ってる」
「俺も免許取ったら助手席はA専用にするわ」
「楽しみ〜」
「あーでも確かにニノは乗せちゃうかも」
「許す」
「殿様かよ」
終わらない軽口の応酬をキスで途切れば、二人の間の空気は途端に甘くなる。
今夜も親は帰ってこないからもう一回シたい。
腰が死んじゃうって逃げ出す身体を押さえて、夕ご飯は俺が作るって言えばAは考え込んだあと頷いた。
本当に俺を甘やかすよね。
これからもずっと甘やかしてくれよ。
俺もそれ以上に、ずっとAを追いかけて甘やかすから。
俺に巻き込まれて、ほだされて、今はこんなに傍に居てくれる君のために。
これからもずっと同じ夜明けを見られるように。
そのための努力を厭わずに、今日も言うよ。何度でも。
嘘のない言葉を、君に。
「A、大好きだ」
おしまい
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作者名：お塩
| 作成日時：2021年5月28日 16時
