ウソツキおまけ小話１ー１(6/2) ページ41
「信じらんねぇ、ほんとにバイト始めるとか」
部屋に入るなりベッドに座り込んで、端正な顔を盛大に歪めて文句を垂れる潤に苦笑する。
一足先に受験を終えた私は、残りの高校生活をバイトに費やすと決めていた。
元々働いていたところがもう一度雇ってくれるというので、二つ返事でバイト再開を決めたのは三日前のこと。
林間学校で不在だった潤にその話をしたのは、まさに林間学校真っ最中で。
ラインに丸一日返事が来なくって、どうしたもんかと思っていたら。
代わりにカズから、
『潤くんに何言ったの』
『林間学校に鬼が出るって伝説になっちゃうデショ』
『帰ったらハンバーグ奢ってね』
と、どうしてほしいのかよく判らないラインが届いた。
そして今日。
帰りのバスが学校に到着して降りてきた潤は、校庭でのHRが終わるやいなや、教室で待ちぼうけをしていた私を連れて、疲れ切ったカズを置いて、潤の家まで私を連れ帰った。
「なぁ、ほんっとにバイトなんで入れたんだよ。受験中よりむしろ会えなくなんねぇ？」
「だって大学デビューまでにお金貯めて色々買いたいじゃん」
それは本当。半分だけ。
ところが、私の『大学デビュー』という単語を聞いた潤が露骨に舌打ちをした。
「大学デビューってなんだよ、‥‥浮気する気か」
「はぁ？そんなわけないでしょ。こんなに可愛くて格好いい彼ぴっぴがいるのに」
「彼ぴっぴって言うな、キャラ変わってんぞ」
そう言いながらもそっぽ向いた耳が赤くなってて、私の頬が緩む。
「笑ってんなよ」
「潤かーわいい、大好き」
「っ、Aなんか‥‥ほんっと何その余裕っぷり‥‥」
年上ぶんなよ、なんて無理なことを言って。
ベッドに座った潤の正面に立っていた私の手を引いて。
自分の膝に跨らせて、下から見上げてくるきれいな瞳。
私の大好きな潤を形作る大切な一部分。
「A‥‥」
「ん」
すくい上げるように私の唇をふさぐ潤のあたたかい唇。
しっとりと重ねて角度を変えて啄んでいると、私を抱く腕に力がこもる。同時に、舌が唇をノックする。
それが合図のように、私も潤の頭を抱きかかえて深いキスを交わす。
気持ち良くて頭が真っ白に塗りつぶされていくようで、たまらなくなって喉を鳴らす私は猫みたいだ。
ようやく唇が離れて、私の顔を覗き込んだ潤は「あ゛ー」って呻いて私の胸に顔をうずめるように抱きしめた。
「潤？どした？」
ふわふわの髪を撫でると、顔をこすりつけてくる潤の方が猫みたい。
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作者名：お塩
| 作成日時：2021年5月28日 16時
