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無我夢中で走って、たどり着いたのは河川敷だった。
遠くに都心の灯りが煌々と見えて、歩いてる人も多くて、私が一人で立ち尽くしても違和感もない。
「はぁっ、はぁっ‥‥はっ‥‥っく、ぅ」
ぼろぼろ湧き上がってくる涙。
肺が苦しい。
呼吸が乱れてるのに泣いたら、もっともっと苦しくて。
さっきの驚いた潤の顔を思い出す。茜ちゃんの肩を抱いていたあの大きな手が、私の素肌を撫でた日を思い出す。
「潤‥‥潤っ‥‥」
苦しい。肺が、胸が、心が痛い。
なんで好きになっちゃったんだろう。
最初から変だって思ってたのに、なんで頷いちゃったんだろう。
こんなに苦しくて切なくて悲しいのに、どうして私は今もまだ潤に会いたいって思ってしまうんだろう。
ポケットの中のスマホがずっと震えている。
着信は潤からで、一度途切れてはまた震える。もう何度も何度も。
その画面を見つめたまま、私は暫くその場から動けなかった。
生温い夜の風に吹かれたまま、胸の奥がじくじく痛むから、動けなかった。
「‥‥帰ろ」
いつまでもこうしているわけにもいかなくて、スマホには今度はカズからの通知がいくつか入っていた。
『どこ？連絡して』
『潤くんがめちゃくちゃ心配してる、電話出てやって』
『無事かどうかだけ教えて、心配してんだから』
どこかぶっきらぼうで優しい弟からの文面に、また涙が浮かぶ。
『大丈夫、帰るから』
そうやって送れば、瞬時に既読が付く。
『どこ？』
『河川敷、もう帰るよ』
『潤くんが話したいって』
その文章に足が止まる。
止まるけど、立ち止まっていたってしょうがないよねって思う。
本当は今夜くらいは一人にしてほしいけど、見られちゃった側として潤だってケジメつけたいよね。
そう思ったら、足はしっかりと地面を踏みしめてくれたし、私は『わかった、どこ行けば良い？』って返事を打てていた。
『まっすぐ帰ってきて、王子様が迎えに行くよ』
「なに、言ってんのよ‥‥」
カズからの返事に既読無視をして歩き出す。
王子様って潤のこと？それなら確かに王子様だけど、私の王子様じゃなかったんだよ。
言ってたじゃん、カズが。
ねーちゃんを巻き込むなって。
巻き込まれた一般人は、いつか真実の愛に気づいた王子様が去っていくのを静かに見守るだけなんだよ。
「A‥‥」
「‥‥潤」
河川敷の階段を駆け上がってきた潤が肩で息をしている。
汗だくになって、手の甲で顎を拭う仕草から目が離せなかった。
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作者名：お塩
| 作成日時：2021年5月28日 16時
