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季節は、真夏になっていた。
夏休みまであとちょっとのテスト前。帰宅部の私は、毎日のように図書室に通っている。
日に日に三年生の姿が増えていって、なんとなく緊張感が漂う図書室は逆に居辛い気がする。
私も受験生なんだけどね。
「ねぇA」
「うん？」
「ここってどうなんの？」
「え？ああここはね、この公式を使うんだけど」
「あー待って、できそう」
「ファイト」
私、受験生なんだけど。
「ねえちゃん、ここ」
「英文？あの構文覚えてる？」
「これ？」
「そうそう、その訳しかたでいいから、そのまま続けてみて」
「ん」
「がんばれ」
私、受験生なんだけどな？
四人掛けのテーブルの向かいに、潤とカズが座っている。
私の隣の席には三人分の荷物が置かれてて、その前には私が使ってる参考書が積まれている。
どうして君たちのお勉強を見なきゃいけないんだい？
そんな疑問が浮かぶけど、実際この二人に教えるのは自分の振り返りにもなるし、案外いい勉強と息抜きになると最近気が付いたので聞かれたときは答えている。
二人が集中し始めたから、私も自分用の参考書に向き合う。
何度も解いて、真っ赤になったそれを横に置いて、過去問に手を伸ばした。
「あーっちぃ！！」
「ほんと夏は無理、わたくし溶けちゃいます」
並んで歩く夕暮れ時。
最近は潤とカズと一緒に帰ることが増えた。
郁子曰く、格好いい彼氏と格好いい弟を連れたアンタに嫉妬する下級生がたくさんいるわよ気をつけて、とのこと。
確かに毎日昇降口で結構な視線を受けるし、そこから校門に向かう間も結構な視線を受けるしで、人気者はつらいねって思う。私のことじゃないけど。
「二人ともテストは大丈夫そう？」
「ん、なんとか」
「Aが見てくれてるし、頑張るわ」
「潤くん愛だねヒューヒュー」
「ばぁか。ニノも頑張んだよ」
「はいはい〜」
子犬みたいにじゃれあう二人の微笑ましい会話の中に、耳に痛い言葉が紛れ込んでいる。
聞かなかったことにして、楽しそうな二人を横目に足を進めると、駐輪場から見知った人が出てきた。
「櫻井くん」
「あ、二宮先輩今帰りですか？」
「うんそう、図書室もそろそろ閉まっちゃうし、あの二人の集中力は限界だったし」
「ああお疲れ様です、勉強見てるって聞きましたけどヨユーっすね二宮先輩」
「そうでもないよ。そう言えば生徒会の仕事大丈夫？」
「なんとか。先輩がちょっと顔出してくれるだけで違います」
「そんな大したことしてないよ」
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作者名：お塩
| 作成日時：2021年5月28日 16時
