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「そいつ今、フラれて傷心なのよ、ほっといてやって」
は。
は？
は！？
今、今翔なんて言った！？
まさか潤の真ん前でそんなこと言うなんて！！
驚きに顔を上げれば、目の前に目を丸くして私を見つめる潤。
そんな顔もイケメンだな、可愛いななんて思っていたら、その端正な眉がぎゅうっと寄って、一気に不機嫌丸出しの凶悪な顔になるから息を呑む。
「は？」
「え、えと、潤？」
「フラれた？Aが？誰に？」
「っ、それは‥‥」
言えない。
めっちゃ潤が凄んでくるけど、言えない。言えないよ。
あなたにフラれて落ち込んでるなんて。
告白する前からダメだったからひどくつらいんだって、言えないよ。
「A、言えよ」
「っ」
ここがどことか。
皆がいるのにとか。
そんなのどっかに行っちゃうほど、鼻がくっつくほど近くで潤の瞳が私をとらえていて、顔がどんどん熱くなる。涙も浮かんでくる。
なんでこんなことするの。なんで。
私もう、みじめでどうにかなっちゃうよ。
「えっ！？それマツジュンが言う！？」
相葉くんの、心底びっくりだよっていう素っ頓狂な声に、潤が「は？どういう意味だよ」ってこれまた心底不機嫌全開の声で返事をする。
並んでこっちを見ていた翔も智くんもカズも、なんだか変な顔して私たちを見守っている。
っていうか、カズアンタ笑ってない？どういうつもり？
っていうか、待って相葉くん何を言う気！？
ハッとした時には、相葉くんのいつもの優しくてあっけらかんとした声がリビングに響き渡っていた。
「だってAちゃんのことフッたの、マツジュンじゃん！」
「――え」
「っ！！」
その瞬間、私は逃げ出した。
脱兎のごとくってやつですよ。
もつれる足を動かして、ダダダダダッ！と階段を駆け上がる。転びそうになったけど、必死で立て直して一番奥の自室に向かう。
今、この顔、世界の誰にも見られたくない。
ドアノブに手をかけて、引っ張って、開けて、身体を滑り込ませた瞬間――
「待てって！！！A！！！」
世界で、今、一番、絶対に、見られたくない人が、私の名前を呼んで、一緒に部屋の中に入り込んできた。
嘘でしょ。
「は、離して‥‥」
「だめ、お前絶対逃げるだろ」
「にげ‥‥うん、逃げる」
「ほらぁ！ダメに決まってんだろ」
「なん、なんでもよ離してよ‥」
声が勝手に震えてしまう。
それに気づいた潤が、やさしい声でA？なんて、呼ぶから。
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作者名：お塩
| 作成日時：2021年5月28日 16時
