こりごりだけど ページ26
「ごめん、Aさんの迷惑も顧みずに。俺、そろそろ」
そう言って腰を浮かせた松本にハッとする。
帰ってしまたら、多分本当にきっともう会えない。
会えなくなったら、今までの、ほんのちょっと前の自分に戻るだけ。
すぐにそれに慣れて、今がイレギュラーで。
解っているのに、このまま見送ればなんてことない日常が続くだけだと。
解っているのに。
「わ、私は松本さんのこと友人だと思ってるっ！！」
「え」
「変な出会いだったけど‥‥その、友達ならまぁありなのかなって思ったし、それに松本さんは私に下心があるわけじゃないでしょ！？」
やけくそのように出た言葉に(何言ってんだ私ーー！！)とAの脳内は相変わらず大騒ぎだ。
ちょっとどころじゃなく馬鹿な発言に思える。下心ってなんだ一体。そう思えど、口は止まらなかった。
なんでこんなに必死になっているんだと、自分で自分がわからない。
「私は全くない。マジでなんか松本さんに疑似的な恋愛感情もわかない。でもそれ友達だからでしょ？ それとも松本さんは私に下心抱いてた？ だから恋人の存在に後ろめたさを覚えてたの？」
わからないけれど、この縁を失いたくないと思った。
――もう、こりごりでしょう。
そんな声がどこかで聴こえても。こりごりだと思っている自分がいても。
松本と過ごしたほんのわずかな時間が、どうしようもなく楽しくて心地いいと感じてしまったから。
「――‥‥無いわ、そう言えば」
つきものが落ちたような顔をして、松本が答える。
「えっ、ほんとだ俺、Aさんに下心とか全く無いわ」
心底「納得した」という顔をして、表情に輝きが戻って「Aさんすげー！」などと言っている。
「‥‥そりゃどうも。私も無いよ。だって友達だから。友達が落ち込んでるのは見たくないので、私は怒っていないし幻滅もしてないし、松本は速やかに元気になって」
無茶苦茶を言っているのはAだって解っている。松本の恋人に対してだって、なんの配慮にもなっていない。だけど。
「私にとってはどんなメディアが伝えてくる松本さんの話よりも、目の前にいるあなたに聞いた話が全部だよ。だから、松本さんが言わなかったのに彼女さんの話をしたのは、ごめん。でも、だからと言って幻滅とか友達止めるとか私は考えてない。彼女さんがやめて欲しいって言うならそれはもうその通りだと思っても、いる、ます‥」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 176人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
お塩(プロフ) - ゆぃさん» ゆぃさん、一気読み疲れないですか？今後どんどん長くなる上に、どんどん何なのこの人たちってなるので(笑)ありがとうございますー！ (2021年10月3日 19時) (
レス) id: c86e5730cc (このIDを非表示/違反報告)
ゆぃ(プロフ) - 小出しもいいけど、一気に読めると尚嬉しいから 一気に出しても大丈夫ですよ~♪ (2021年10月3日 13時) (レス) @page29 id: 7a81be16ec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：お塩
| 作成日時：2021年9月29日 1時
