だけど心地良い ページ20
(本当になんつうか訳の分からない人だな)
ほんの十五分ほど前には、松潤が部屋にいるのは緊張するなどとのたまったくせに、今はもうそんな空気微塵もない。
むしろ松本が目の前にいることを忘れているのかと思うほどに真剣な表情で、なにやらキーボードを叩いている。
(なんだよ、もー‥)
話したいことがあった。だからわざわざ忙しい合間をやりくりしてやってきた。
でもそれは松本の都合であって、彼女にそれに合わせてくれと言うつもりはない。
松本は片手で頬杖をついたまま、パソコンに向かうAの顔を見つめていた。
結局テレビを点ける気にはならずエアコンの音しかしない室内に、Aがキーボードを打つ音が響く。静謐が薄い皮膜のようにこの空間を覆っているのに、なぜか気まずさはない。
(なんだろうなこの部屋、なんつうか居心地良い)
目の前の女性に相手にされていないこの空気も、嫌じゃない。
むしろ、それこそ家族みたいに扱われて、初めて一般人から『嵐の松本潤』を求められていないことに気がつく。
(ああ、そっか‥‥俺疲れてたのかも‥‥)
Aと出会ってからのほんの二か月足らずを思い返す。
あの夜羽目を外しすぎて飲み過ぎたのも、やけにこの人に引力を感じるのも。
しおれかけた花が水を求めるみたいに。
どこかで、癒されたかったのか。
それがたまたま、ちょうど偶然にも出会ったこの人の傍らにあったのだろうか。
(‥‥、意味わかんないわ、俺はポエマーか)
ただあの夜のように真剣なまなざしが、こちらを向かないだろうかと。そう思って目の前のAをじっと見つめた。
その視線を感じているだろうに、集中しきった彼女が松本を向くことは無い。
その事実がまた面白くってどうにかして気付かせようなんて思って、ふと別のことに思い至る。
「あ」
「うん？」
「Aさんメシ食ったの？」
「コンビニ寄ろうと思ったけどあんなんだったから諦めたんだよね」
「え、じゃあ食べてない？」
「うん」
「いや、その仕事やる前に食べなって」
「お米炊いてないし、もうめんどう」
「‥‥」
「‥なに？」
漸く上げた顔は先ほどまでの真剣さが凪いで、どこかぽかんとしている。望んだ視線じゃなかったけれどやっとこっちを向いたなと松本は笑った。
「え、なに」
「冷蔵庫空けていい？」
「いいけど。えっ、なにするの、えっ？」
「俺がメシ作るよ」
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お塩(プロフ) - ゆぃさん» ゆぃさん、一気読み疲れないですか？今後どんどん長くなる上に、どんどん何なのこの人たちってなるので(笑)ありがとうございますー！ (2021年10月3日 19時) (
レス) id: c86e5730cc (このIDを非表示/違反報告)
ゆぃ(プロフ) - 小出しもいいけど、一気に読めると尚嬉しいから 一気に出しても大丈夫ですよ~♪ (2021年10月3日 13時) (レス) @page29 id: 7a81be16ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：お塩
| 作成日時：2021年9月29日 1時
