不審者かと ページ16
「まぁコンビニで良いか‥」
スーパーに寄るなら、コンビニの方が近い。買い物なら明日の朝でも間に合う。
生ぬるい夜風が強めに吹いて、肩にかかるAの髪を揺らしていく。
雨が降るのだろうか。予報ではもっと遅い時間に降水確率が高かった気がするが、見上げた空はいつの間にか重たい雲に覆われている。
尚更早く帰ろうと思い、Aは足早に駅を後にした。
「もぉぉ‥‥」
あの後、ぽつりぽつりと髪を濡らし始めた雨はすぐに大粒になった。土砂降りではないのに、雨粒が大きすぎて被弾すると真面目に痛い。風も吹き荒れるし、春の終わりの嵐なんて勘弁してほしい。
結局Aはコンビニも諦めた。
傘は今更だし、ビニール傘が玄関に増えていくのは嫌だ。走るのは面倒だが飄々と歩く気分にもならなくて、駆け足でマンションを目指す。
エントランスの明かりが見えた頃、見慣れたその場所の陰に人影を見つけて、Aはあえて見ないようにした。
(なんだろ不審者じゃないと良いけど)
こんな時間にこんな場所で。怪しさ満点である。
飲み屋街から少し入った住宅地ではあるけれど、たまに酔っ払いは出没するし、マンションの回覧で不審者情報が出ることもある。
「うー冷えてきた」
ところが彼女が鍵を探していると、その人影が近づいてくるのが解ってギクリとする。それなのに、こんな時に限って鍵が見当たらない。
けして大きくない鞄の一体どこに隠れんぼしているんだお前ぇぇ！ と平静を装って内心は心臓はバクバクさせながらAは一心に鍵を探す。
そしてその人影がすぐ背後に迫った時、楓は叫んでいた。
「わぁぁ管理人さんタスケテー！」
「ちょっ！ ちょっと待って！！ 楓さんっ」
「へっ！？」
近づいてきた不審者は松本だった。
「そんっっなに、笑う！？ ねぇ！！」
「だ、だって、だってAさ‥‥だって‥ぶふっ‥タス、タスケテーって‥」
「どっからどう見てもキミは不審者だったからね！？ ほんとに玄関から追い出すぞコノヤロウ」
「すいませんでしたぁっ！」
雨は本降り時刻は二十時半。マンションのエントランスで大騒ぎする訳にもいかず、Aは松本を自室に招いた。
どこかに行こうにもびしょ濡れだったからどちらにしろ一度着替えないといけないが、その間松本を外に置いておくことは世間的に許されない気がしたからだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 176人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
お塩(プロフ) - ゆぃさん» ゆぃさん、一気読み疲れないですか？今後どんどん長くなる上に、どんどん何なのこの人たちってなるので(笑)ありがとうございますー！ (2021年10月3日 19時) (
レス) id: c86e5730cc (このIDを非表示/違反報告)
ゆぃ(プロフ) - 小出しもいいけど、一気に読めると尚嬉しいから 一気に出しても大丈夫ですよ~♪ (2021年10月3日 13時) (レス) @page29 id: 7a81be16ec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：お塩
| 作成日時：2021年9月29日 1時
