サファイアの思い出 ページ4
二人、大好きだったあの場所で。
手を繋いで、サファイアの色に染まる空を見つめてた。
街を見下ろす小さな山の展望台の駐車場に車を停めた時、世界は夕暮れに染まっていた。
西の空は赤く、東の空は青く、南天は紫にグラデーションして、私もあなたもこの時間が大好きだった。
「間に合ったー！ 見て空！ 超キレイ‥！」
車が止まる前にもうシートベルトを外して今か今かとドアノブを握っていた私を、潤が苦笑してみていた。
「こら、落ち着け。あぶねぇだろ、結婚式を前に怪我してぇのかよ」
「ええーそれは嫌だ！ ただでさえ一生忘れられないのに、怪我してるとか最悪」
「だな、俺も満身創痍の花嫁は見たくねぇわ」
そう言って笑う。
潤のその横顔も声もいつもと同じで、ああ明日もこうやって毎日は続いていくんだなって思えた。
展望台と言っても車除けみたいな駐車場には5台くらいしか停められなくて、今日は雨上がりだからか人はいなかった。
ベンチは濡れていて、二人で柵に手を乗せて夕景に染まる街を見下ろした。
あそこが駅だね、じゃああっちがあれか、向こう何かな？ あああれは――
何度も何度も指さして、そのたびに二人であーだこーだ言い合って、こうして見つめた街の景色。
明日でさよならなんて嘘だよね。
寂しい気持ちと、行きたくないなって気持ちが交差する。
隣に潤がいてくれたらいいのに。
「明日、式終わったらすぐ羽田だっけ？」
「そうだよー。結構時間ギリギリだから遅れないか怖い！」
「お前はそゆとこ危ういよな」
潤が煙草に火をつけた。
いつからか、私に対して「いい？」って確認を取らなくなった。
潤の右手が煙草をくゆらせて、私は左腕にしがみついた。
離れたくないな、ずっとずっとこうして居たいな。
「明日、めっちゃ綺麗になった私にびっくりしないでよ」
「期待しないで待っとくわ」
「なんでよ！ 期待してよ！」
「するわけねぇだろ、――俺のもんじゃないのに」
「っ‥‥」
言葉に詰まる。
「なんで、俺のもんになんねぇのかな‥‥」
「潤のものだよ、死ぬまでずっと」
ぎゅっと抱き着く。
潤が煙草を踏み消して、私を強く抱きしめた。
離れたくないよ。離れたくないのに。
私は明日結婚する。
潤じゃない男の人と。
親が用意したお見合い相手は、家柄も申し分なく。
長く続く老舗旅館を守っていくには十二分に過ぎる相手で。
今日まで、お目こぼししてもらっていただけだって、解ってる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 258人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆかり - 潤君素敵です (2022年9月11日 17時) (
レス) @page44 id: c109875420 (このIDを非表示/違反報告)
お塩(プロフ) - いくさん» いくさんコメントありがとうございます！えっえっニノ担さんですか！私はＪ担推しでニノを宗教だと思っている人間ですので、ニノ担の方に好きになってもらえるなんて最高です！！ありがとうございます！！別ページに幸せな結末もあるのでもし宜しかったらそっちも是非！ (2021年10月31日 20時) (レス) id: bdf4956e41 (このIDを非表示/違反報告)
いく(プロフ) - 悲しくて泣きながら読んでました。お塩さんのお話し読んでから、ニノ担でしたが、Jが大好きになっちゃいました。 (2021年10月31日 19時) (レス) id: b9250881d5 (このIDを非表示/違反報告)
お塩(プロフ) - りえさん» りえさんコメントありがとうございます！すみません、すぐ分かるあそことは『世界は二人のために色づいて』というハピエンページです！ハピエンページということは、そういうことです！是非是非いってらっしゃいませです！！ (2021年10月31日 18時) (レス) id: c86e5730cc (このIDを非表示/違反報告)
りえ(プロフ) - くるしい、かなしい、と思いながら読みました。でも「多分すぐわかるあそこ」が分からない…どこなのでしょう。 (2021年10月31日 17時) (レス) @page29 id: 99c0de9694 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：お塩
| 作成日時：2021年9月1日 22時
