＊ ページ28
「今までもずっとありがとう。同窓会から12年も経っちゃったけど、潤とまた前みたいに過ごせたの本当に楽しかった‥‥私、後悔なんてないよ」
電話の向こうの潤が黙り込んでいる。
ねぇ、今、何を想ってる？
私は思い出してる、色んなこと。今までのこと。
潤もちょっとは思い出してくれるかな。
本当は楽しいことと同じくらいつらい気持ちにもなった日々だけど、潤のすぐ傍でいろんな潤を見れたこと、幸せだった。
本当に後悔なんてないんだよ。
空はまだ暗いけれど、東の遠くが仄かに明るくなって、夜明けはすぐそこに来ている。
遠くでバイクの走る音が聴こえた。夏の朝に、人々の気配が少しずつ充ちていく。
曇り空が千切れて、濃紺の明けの空に星が――
「ありがとう潤、ずっとずっと好きだった、大好きだったよ」
『‥‥A、お前』
「あの夜も、嫌じゃなかった。誰にも言わないけど、忘れないのは許してほしい」
『A、待って』
「大好き、ほんとに‥‥っ、大好きだったよ、ありがと、潤‥‥っ、さよなら」
最後には泣いてしまった。
泣くもんかって思っていたのに。
すぐ近くの首都高を、こんな朝なのに救急車が駆け抜けていく。
潤が私を呼んでいるけれど、スマホを耳から離してそっと通話を切った。
涙がぼたぼた落ちてきて、飲み込み切れない嗚咽が溢れる。
今だけは誰も私に気づかないで。
この世に一人みたいな気持ちで、泣いていたい。
見上げた先の、キラキラ輝く明けの明星。
あの星は一等星じゃ無いけれど、唯一無二で。
ああ、私にとっての潤もそうだった。
ずっとずっと地上の星だって、一等星だって思っていたけれど。
潤の代わりなんていない。潤みたいな人、どこにもいない。
明けと宵に一番輝く、たった一つの一番星。
「――潤」
私にとってのあなたは、この世に在るのにこの世に無いような。
泡沫のようでもあって、鮮烈な存在でもあって。
忘れることも捨て去ることも出来ないから、いっそずっと抱きしめていくよ。
白々と明けていく空が、あの星の輝きをわずかに落としても。
私にとってのあなたは、いつまでも輝き続ける消えない星。
例えもう、その輝きに触れることが叶わなくても。
抱きしめて、また歩き出せる。
「‥‥っ、は‥」
ようやく落ち着いた涙と呼吸を整えて、涙でぐしゃぐしゃになった顔で見つめた夏の夜明け。
朝ぼらけに輝くその光を、瞳に焼き付けた。
(さよなら、大好き)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 258人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆかり - 潤君素敵です (2022年9月11日 17時) (
レス) @page44 id: c109875420 (このIDを非表示/違反報告)
お塩(プロフ) - いくさん» いくさんコメントありがとうございます！えっえっニノ担さんですか！私はＪ担推しでニノを宗教だと思っている人間ですので、ニノ担の方に好きになってもらえるなんて最高です！！ありがとうございます！！別ページに幸せな結末もあるのでもし宜しかったらそっちも是非！ (2021年10月31日 20時) (レス) id: bdf4956e41 (このIDを非表示/違反報告)
いく(プロフ) - 悲しくて泣きながら読んでました。お塩さんのお話し読んでから、ニノ担でしたが、Jが大好きになっちゃいました。 (2021年10月31日 19時) (レス) id: b9250881d5 (このIDを非表示/違反報告)
お塩(プロフ) - りえさん» りえさんコメントありがとうございます！すみません、すぐ分かるあそことは『世界は二人のために色づいて』というハピエンページです！ハピエンページということは、そういうことです！是非是非いってらっしゃいませです！！ (2021年10月31日 18時) (レス) id: c86e5730cc (このIDを非表示/違反報告)
りえ(プロフ) - くるしい、かなしい、と思いながら読みました。でも「多分すぐわかるあそこ」が分からない…どこなのでしょう。 (2021年10月31日 17時) (レス) @page29 id: 99c0de9694 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：お塩
| 作成日時：2021年9月1日 22時
