＊ ページ2
暫く会話も無いまま秋の夕日を見つめた。
遮るものひとつない大海原へと落ちていく西日。
何の迷いもないその軌跡に、私も真っ直ぐ彼に向って落ちて行けば何か違ったのかなと思って、たらればの空しさを笑う。
「なぁ、A」
「うん？」
「あの、さ」
言いよどむ歯切れの悪い彼に首を捻る。
折角セットした後ろ髪を手で乱して、私を見つめる真っ直ぐな瞳。
その目が、ずっと好きだったよ。
その目に、ずっと見つめてほしかった。
なんでそれが今かなぁ。
あなたとあの子の結婚式で、こんな真っ直ぐな瞳を向けられて息を呑む。
「今だから言うけど、俺さ」
その先の言葉を想像して、喜んで、絶望する。
「俺、高校ん時お前のこと好きだったんだ」
ああ神様。
私にあの時、あとちょっとの勇気があったら。
今、ここにタイムマシンがあったら。
あの時代に戻って、幼馴染に甘んじていた私の頬と背中を引っ叩いて「死ぬ気で告白しろ！」って言うのに。
だけど、そんなこと無理だから。
「そ、うだったんだ。‥‥ありがとう、」
「ん。なんか悪いな、今言うことじゃなかったか！」
「ううん、嬉しいよありがとう」
「こっちこそ、ありがとう。これからも、その、宜しくな」
白い手袋を外して差し出された手をじっと見つめる。
この手を取ったら、きっと今度こそ私の恋は終わる。長い長い初恋が終わる。
ずっと夢見てた瞬間が、叶わない過去と一緒に流れていく。
「――うん、これからも宜しくね、翔」
「おぅ！」
その笑顔も好きだったよ。
小動物みたいで、美味しいものを食べるとハムスターみたいに口に詰め込んで「うめぇうめぇ！」しか言わないところも可愛くて。
途中で不良みたいになっちゃって、それでも学校の成績は良くて、面倒見も良くて、そんなところが格好良くて大好きだった。
大好きだったよ、翔。
私の大切な幼馴染。
――幸せになって、あの子と二人で。
どうか、どうか。
不幸になんてならないで。
喧嘩したってすれ違ったって、二人で乗り越えて、二人で――
「幸せになってね！！」
「サンキュ！！ お前も早く相手見つけろよ！ って余計にお世話か」
「まぁ気長にやってくよ」
歓声が上がる。
見れば、夕日が一番のクライマックスを迎えていて。
翔の背中を押す。私のとこに居る場合じゃないでしょうって。
あなたが今、居るべき相手が、手を振っている。
二人で振り返して、翔だけがちょっとした坂道を登っていく。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 258人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆかり - 潤君素敵です (2022年9月11日 17時) (
レス) @page44 id: c109875420 (このIDを非表示/違反報告)
お塩(プロフ) - いくさん» いくさんコメントありがとうございます！えっえっニノ担さんですか！私はＪ担推しでニノを宗教だと思っている人間ですので、ニノ担の方に好きになってもらえるなんて最高です！！ありがとうございます！！別ページに幸せな結末もあるのでもし宜しかったらそっちも是非！ (2021年10月31日 20時) (レス) id: bdf4956e41 (このIDを非表示/違反報告)
いく(プロフ) - 悲しくて泣きながら読んでました。お塩さんのお話し読んでから、ニノ担でしたが、Jが大好きになっちゃいました。 (2021年10月31日 19時) (レス) id: b9250881d5 (このIDを非表示/違反報告)
お塩(プロフ) - りえさん» りえさんコメントありがとうございます！すみません、すぐ分かるあそことは『世界は二人のために色づいて』というハピエンページです！ハピエンページということは、そういうことです！是非是非いってらっしゃいませです！！ (2021年10月31日 18時) (レス) id: c86e5730cc (このIDを非表示/違反報告)
りえ(プロフ) - くるしい、かなしい、と思いながら読みました。でも「多分すぐわかるあそこ」が分からない…どこなのでしょう。 (2021年10月31日 17時) (レス) @page29 id: 99c0de9694 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：お塩
| 作成日時：2021年9月1日 22時
