知っている顔 ページ7
「‥‥み、ず？」
「水です。そこのコンビニで買ってきました。変なものは入っていませんよ。‥‥自分で開けられます？」
目の前で未開封のペットボトルを振れば、男はその手を伸ばしてきた。
「‥‥うまく、できない、です」
「じゃあ失礼して。はい、どうぞ」
小さめのペットボトルの蓋を捻る指先を男はうつろな瞳で見つめている。けれど差し出すと、ハッとしたように目を伏せた。
その瞼から伸びる睫毛が暗がりの中でもさらに濃い影を落とすものだから、流石だなぁなんて彼女は明後日な感想を抱く。
「‥す、みません‥‥」
「いいですよ、濡れたら気持ち悪いでしょうからタオル当てますね」
何とか自分で水を飲む相手の襟元にタオルを置いて、大丈夫だろうかと見つめると、ゴクゴクと大きく上下する喉仏が見えた。
こんなに間近で見つめることなんてとんとない代物だなぁなんて思うのは、多分現実逃避なのだ。
今目の前にある、有り得ない現実からの。
だって。この人。
多分知っている。
このふわっとした髪も、間近で改めて見ても驚くほど端正な顔も。
だけど、だから何なんだという気分が沸き起こる。
週末、花金、会社に2日も缶詰でようやく帰れた午前様の初春の真夜中。
ドラマみたいな出会いにときめく胸は、彼女の中に欠片も残っていない。
「‥‥寒くないですか」
「‥‥チョット‥‥さみぃ、です」
ほんの少しでも目が覚めたのか男の口調が僅かだがしっかりとしたものになる。
ぶるっと身震いする様子は、寒さのせいかそれともお酒のせいか。
一先ず彼女は首に巻いていたストールを、相手の首に巻き付ける。途端に自分の寒さが増すけれど、目の前のこの人の方が確実にヤバいとわかる。
まだまだ全然気持ちが悪いのか、荒い呼吸のまま壁に預けた上半身がずるずると倒れてしまう。
「あっ、だめですここ汚い」
「もうむり」
「え、ご臨終ですか、気をしっかり」
「‥ひどい」
ちょっとだけ笑った気配を纏わせたまま呟いてまた目を閉じてしまう横顔は、やはり知っている顔だった。
と言っても、こちらが一方的にだが。
ただでさえ暗がりのせいで悪く見える血色がさらに引いている気がしてほんの少しの焦りを覚えた。
春先と言えまだ三月のはじめ。午前様になれば寒さは冬と変わらない。
クリーニング出せばいいやと、これまた先週下ろしたばかりの春用トレンチコートをかける。無いよりはましだ。
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お塩(プロフ) - ひーちゃんさん» ひーちゃんさん、コメントありがとうございます！えっ、ヒーちゃんさんも夢落ち潤担さんですか！？そんな偶然があるとは驚き過ぎて笑ってます。続きは実はできてるので、修正しつつそのうちページ作りますね！ゆっくりお待ちください！ (2021年9月22日 15時) (
レス) id: bdf4956e41 (このIDを非表示/違反報告)
ひーちゃん(プロフ) - お塩さま、作品を楽しく拝見させて頂いております。夢堕ち潤担！私もです( ・∀・)ﾉ﹛ﾊｰｲ!何だか嬉しく思いました。続きも心待にしております。 (2021年9月22日 2時) (レス) @page28 id: af081d03e4 (このIDを非表示/違反報告)
お塩(プロフ) - ゆぃさんありがとうございますっ！私の中ではむしろ一番古い話なので不思議な気分です(笑)創作意欲ばっかり溢れて実際は空回りですよ‥‥ふへへ。いつもゆぃさんに励まされてます！ほんとにありがとうございますー！！ (2021年9月1日 12時) (レス) id: c86e5730cc (このIDを非表示/違反報告)
ゆぃ(プロフ) - - ここにきてまさかの新作とは！驚きです！！お塩さんの書きたい意欲が凄い♪無理しないでくださいね~ (2021年8月30日 14時) (レス) id: 7a81be16ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：お塩
| 作成日時：2021年8月7日 1時
