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「ケータリング持って来てくれたん?ありがとう〜。」
震えながら袋を差し出すと、「サンドイッチじゃん!超うまそ〜!」と揚々とした声の彼。
うっそ…モデルって、風磨?!
あいつ、モデルって言ったじゃん…
モデルじゃないじゃん、アイドルじゃん…
あ、モデルって撮影モデルってこと?
心臓が太鼓並みに騒がしくて、よくわからないコールアンドレスポンスが頭の中でぐるぐる巡る。
『で、では、わたしはこれで……』
同時に自分の犯した大罪を思い出し一気に恥ずかしくなる。
もうこの場に入れない、早く立ち去りたい。頭を下げたわたしは彼に背を向ける。
「待って。」
でも、彼はわたしをたった3文字でまたこの足を止める。推しに言葉をかけられて、逆らえるわけない。反射的に動いてしまう体が今は憎い。
振り返らないと踏んだのか、彼はわたしの前まで回り込んできた。
『……どう、しましたか?』
「もう行っちゃうんだよね?俺、外で食べるから途中まで行こう。」
『……』
「ダメなの?」
『……ダメじゃ、ないです。』
そんなかわいく言われたら断ることなんてできるわけない。
きっと彼もそれをわかっているんだ。「ありがとう」と微笑んだ彼はマネージャーらしき人からスマホを受け取り、ちょっと出ると告げる。
わたしのところに来た彼はいこっか?とまた手を差し出す。
困惑するわたしに「また好きになった?(笑)」と揶揄うような笑顔を向けてきて、緩みそうになる表情を必死で真顔に戻す。
いや、もう、推しが隣にいるだけで逃げたくなる。
意味わかんない。ステージの上にいるときは一瞬でも目が合いたくて近づきたくて仕方ないのに、いざ、隣にいると目は合わせられないし、今すぐこの場から逃げ出したくなる。なぜ?
『では、わたしは車戻すのでこのへんで…』
「あ、そうなの?駐車場どこ?」
『えっと、ここのスタジオの裏です。』
「すぐそこじゃん。助手席乗っていい?」
『えっ…?!』
「外で食べてたら目立つなって。車止める間、俺と話そ?」
話さない?じゃなくて、話そ?っていうとこ風磨らしい。
もちろん首を横に振ることなんかできるわけもなく「わかりました…」と答えたわたしの隣に彼が座る。
こんなことある?推しの命を、今わたしが預かっている…?
シートベルトをしながらそんなことを考えていたら、「友達乗せてると思って気楽に」と返された。
完全に心、読まれてる。
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作者名:舞子 | 作成日時:2024年3月7日 12時