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『なに?ケータリングシェアしてくれんの?』

「あれは人数分しかない。」

『えー。』



文句を垂れながら、案内されスタジオにお邪魔する。

結構広くて、近くにはスタッフと思わしき人がたくさん。奥の方でカメラのシャッター音と、監督であろう人の指示する声が聞こえて、CM撮影ってこんな雰囲気するんだぁなんて考える。



『いいの?わたし入って?』

「社員証してるから大丈夫。もう少ししたら休憩入るから、さっきのケータリング、モデルさんに渡してあげて?」

『え?!お礼って言うから楽しみにしてたのに、まさかのパシリ?!』

「バレた?」



ドヤ顔で笑う同期。しまったやられた、黙って車戻せば良かったと後悔する。

「一人分ちょうだい!」と部下に声をかけ、その子がわたしにドリンクとサンドウィッチが入った紙袋を手渡してきた。



「はーい、OKです。確認入りまーす。」



その声で今まで静かだったスタジオがドワっと騒がしくなる。あ、これが休憩?と思っていると、「行ってこいよ」と目で合図される。

「みなさーん!よかったらどうぞー!」と部下の子がスタッフに声をかけゾロゾロとこちらに近づいて来る。それを掻き分け、わたしはセット付近にいるであろうモデルさんの元へ向かった。



ほとんどの人が捌け、大掛かりなセットの前にはモデルさんだけになった。彼はわたしに背を向け、装飾されたリアルなセットの一部を興味深々に眺めていた。



コツコツ、と近づくと、わたしの足音に気づいたのか、彼が振り返る。

その瞬間、わたしの足はまるで何かに掴まれたように動けなくなってしまった。



セットの前には、わたしと、彼。
深い森に迷い込んだお姫様を見つけ出したみたいな光景だ。
もちろん、お姫様はわたしではない。



彼はわたしと目が合うと、ちょっとだけ驚いた表情をしていた。
でも、すぐに微笑んで立ち尽くすわたしに歩み寄って来てくれたとき、わたしのことを覚えていると確信した。



「また会えて嬉しい。七瀬さん。」



ちゃんと声が出せたとき最後に褒めてくれるあの優しい声、優しい笑顔で、彼は自分の手を差し出してきた。



12年間、幾度となくこの笑顔に救われてきた。

もう二度とわたしだけを見る瞳には出会えないと思っていたのに。

嘘のような光景が今わたしの目の前で再生されている。



『ふう、ま…。』



やっと出た言葉が情けなさすぎるけど、「ほら、やっぱり俺のファンじゃん」と彼はクスクス笑っていた。

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作者名:舞子 | 作成日時:2024年3月7日 12時

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