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『下積み時代から、ですか?』
「はい。かれこれもう15年くらいの付き合いかなぁ。」
タクシーはあっという間に到着して、彼の行きつけというこれまたおしゃれなバーに案内される。
お酒も入ってきてちょっと話し方が砕けた彼は、いつもテレビで見る姿が垣間見えてやっぱりまだ夢を見ているよう。普通に話せている自分に驚いているくらい。
「清水さんは俺がまだ駆け出しのときのイベントでお世話になったのが出会いです。たくさんいる中の一人だったジュニアの俺にも優しいし、分け隔てなく話してくださって、こういう大人になりてぇ〜ってすげー憧れてて。」
『清水さんって昔から変わらないんですね。』
「そうなんです。デビューしてからも何度か仕事一緒にしたんですけど、俺の憧れはいまだに揺るがず清水さんですね。七瀬さんは、取引先で知り合ったんでしたっけ?」
『はい。ご贔屓していただいております。清水さんはどんどん役職が上がっていくのにいつもフランクに接してくださって。わたしも助かっています。』
冷静を保とうと思っても緊張している事実は変わりなく、なんとか顔色を変えないよう会話を続ける。
彼は自分から自分の仕事のことをあまり話さないから、わたしもそれ以上は聞かない。
代わりに清水さんとの仕事のことや自分の仕事について当たり障りなく話をしていると、そんなわたしをじっと彼は見つめている。
あまりに真っ直ぐこちらを見ているものだから、思わず苦笑し「え?」なんて変な声を出してしまった。
『……どうしました?』
「七瀬さん、素敵ですね。」
『…っ?!』
思わずむせてしまうわたしに「大丈夫?」と彼は尋ねる。
大丈夫なわけないけど「平気です」とカスカスの声で返した。
不特定多数にいつもかけられる言葉が今わたしだけのものだなんて。
彼にとってはなんでもない、その場限りの言葉かもしれないけど、わたしにとってはもう、一生忘れられない大切な時間になることは確かだった。
動揺してしまったわたしは少しペース良くお酒を飲み進めてしまう。
ちょっと心配そうに見つめる彼が何度かちらついて、それさえも幸せかもしれない、なんてふわふわの頭の中で考えていた。
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作者名:舞子 | 作成日時:2024年3月7日 12時