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『清水さん、ありがとうございました。』
「こちらこそだよ。今後ともよろしくね。」
『もちろんです。おやすみなさい。』
タクシーに乗った清水さんに挨拶をして、発車するタクシーを見送る。
「清水さん、大丈夫でした?」
『はい。思っていたより元気そうでした。』
「それならよかった。」
なんとか平常心を保って話しているけど、こんな状況耐えられるわけない。いい思い出ができたと思って早くこの場から立ち去りたい。
『では、わたし方向こっちなので。今日はありがとうございました。では、…』
「また是非」なんて叶うわけない言葉を口にしそうになって思わず閉じる。
何か言いかけたわたしに「ん?」と聞き返す彼に、「何でもないです」と返す。
「……あの、七瀬さんさえ良ければ、もう一軒行きませんか。」
完全に帰ろうとしていた空気を醸し出していたわたしに、想定外の言葉を彼はわたしに向ける。
『あっ、えっ、でも芸能人なんですよね…?一般人のわたしといて見つかったら…。』
「タクシー使えば大丈夫。すぐ近くだしダメ…ですかね?」
敬語とタメ口が入り混じって、テレビの中ではあんなに余裕な雰囲気で何でもこなすのに、今の彼は何だか不安そうにこちらを見ていて。
可愛すぎて思わずきゅうっと胸が締まる。
『では、お言葉に甘えて…。』
「っしゃ。ありがとうございます。」
お礼を言って彼は、徐に電話をかけ始める。
「じゃあお願いします」と話す彼を思わず凝視してしまっていると、ふふっと笑った彼が電話を切る。
「知り合いのタクシー、呼びました。」
『あ、なるほど…。』
「すぐ来てくれるみたいなので。寒くないですか?」
『はい。むしろお酒飲んで少しあったまりました。』
「よかった」と微笑んだ彼は、本当に眩しい。
みんなに向けられている彼の笑顔を今、わたしが独り占めしている。
わたし明日、死んじゃうのかな。
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作者名:舞子 | 作成日時:2024年3月7日 12時