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今日のたった数時間だけで、多分一ヶ月分くらい鏡と対面したと思う。
わたし、耳の下にほくろあったんだ、なんて鏡を見過ぎで新たな発見までしてしまった。
現場のときくらいしか使わない大きめのコテでゆるく髪を巻き、一番高くて一番お気に入りのワンピースに袖を通す。
別に、気合が入っているわけじゃない。
芸能人、ましてや推しと会うんだから最低限の身だしなみを整えるのは当たり前だしそれがマナーだから。
そう言い聞かせてもなお、落ち着かないわたしは何度も部屋をぐるぐるしてしまう。
すると、約束の時間の15分前になったところでスマホが鳴る。
『はい、七瀬です。』
「もしもーし。菊池です。」
『……お疲れ様です。』
「今大通りの信号待ちしてて、多分このまま行けば約束の時間ちょうどに着きそう。もう出れそう?」
『はい。』
「了解。じゃあ、またあとでね、Aちゃん。」
爽やかに名前呼びをしてきて、破壊力強すぎる。
「はい」と馬鹿の一つ覚えみたいな返事しかできないわたしは通話が終わったあとも手を振るわせながら悶えが止まらない。録音しておけばよかった…。
もう着くと話していたので、わたしは昨日磨いたヒールを出す。
「歩き回ったりアクティブなことはしないから、服装や靴は好きなので来て」と事前に伝えてくれた彼はなんてしごでき、スパダリなんだろう。いや、ダリではないけど。
集合場所はわたしのマンションの地下駐車場。
いろいろ考えたけど、そこが一番安全だし、ちょうどわたしの駐車枠の隣が来客用だったから、提案した場所。
駐車場に着いてそわそわしていたら、彼から聞いていた特徴によく似た車が入ってくるのが見えた。
「お待たせ。ごめん、ちょっと待った?」
『いえ、今来たところです。』
「ならよかった。」
わたしの前に停車し、サングラスを着用した彼が窓を開けて声をかける。
サングラス……コンサートのときも思ってたけどやっぱりかっこいいし似合ってる。窓もスモークで芸能人の車って感じだ。
「乗って。後部座席で申し訳ないけど。」
『そんなことないです。失礼します。』
わたしが手をかけようとすると、自動で開く扉。おぉ…。
一礼したわたしは乗り込み、ゆっくりと扉が閉まる。
今日は風磨って感じの服装でわたしの好みどストライクだった。
私服、なのかな。
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作者名:舞子 | 作成日時:2024年3月7日 12時