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「おっす〜!なんか久々だな。」
窓際の一番景色のいい場所で昼食を取っていると、日替わりの油淋鶏定食が目の前に置かれる。
顔を上げると数日ぶりに見る同期だ。
あぁ…今日そっちと迷って結局定番の焼き魚定食を選んだけど、美味しそう…と眺めていると「やんないよ?」と冗談っぽく笑う彼に「結構です」と返す。
『確かに久しぶり。仕事来てた?』
「出張だったんだよ。ほれ、土産。足早いから明日中には食えよ。」
『えっ、ありがとう〜。心配しなくても今日のうちに食べる。』
渡されたのは京の都で有名なあんこの和菓子。午後の仕事の合間に食べよーなんて考えて受け取るとニヤニヤしながらこちらを見ている同期。
『えっ、何?』
「どうだった?」
『何が?』
「菊池風磨。」
思わぬ名前にはしたなくむせてしまうわたし。「大丈夫かよ」と同期は呆れた様子を示していたけど、わたしの反応を楽しそうに伺っている。
「お前、ファンだって言ってたよな?同期のためにケータリング任せた俺、マジでできる男じゃね?」
『それ自分で言う?』
「まぁまぁ(笑)で、感想は?お前ちょっと話してただろ?」
グイグイ突っ込んでくる同期。
どうって言われても…
土曜日の約束の電話をしてから、連絡はとってない。
あの日から、スマホが鳴るたびにドキドキして、一日に通知を何度も確認して、連絡が来ず一日終わって少し気持ちが落ち込んで。
でも、自分から連絡なんて取る勇気もあるわけないし、しかも仕事仲間でも友達でもない。わたしと彼の間の関係に名前なんてないのに、軽々しく連絡を取るなんてできるわけがなかった。
『……少しだけ話した。気さくで優しかったし、かっこよかったよ。』
今、同期に話せるのはこれだけだ。
でも、嘘を言っているわけじゃない。
本音であることには間違いない。
わたしの答えに満足したのか、同期は気持ち悪いくらい満面の笑みを浮かべる。
「菊池さんとは一年契約だから、またうちで撮影もあるかもな。」
『そっか……。』
「嬉しくないのか?もしかしたらまた偶然遭遇できるかもしれないんだぞ?」
『もちろん、嬉しいよ。ファンだもん。』
何となくうまく返せなくて当たり障りのないことを口にするけど、同期は少しだけ真剣な視線を向ける。
「惚れるなよ。」
凝視してくるから「何?」と半笑いで返したのに、彼はわたしから目を逸らすことなくそうはっきり告げた。
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作者名:舞子 | 作成日時:2024年3月7日 12時