推しは人生。 (ページ13)

今日:247 hit、昨日:698 hit、合計:34,001 hit

13 ページ13

＊

家に帰ると不在着信が入っていた。

まさかの相手に持っていたスマホを思わず落としそうになったけど、あわててわたしは折り返す。

「もしもーし。」

陽気な声が聞こえる。電話越しだと声が少し低いんだ。それだけでドキドキしてしまうわたしは本当に根っからのファンだ。

『あ、もしもし、七瀬です…。』

「知ってる(笑)ごめんね突然。今平気？」

『はい。もう家なので。』

「そう。それならよかった。」

彼の後ろが少し騒がしいからテレビの音かな。風磨も、自宅なのだろうか。

『あの…どうしたんですか…？』

「ん？用があったかってこと？ないよ。」

『え？！』

「七瀬さんの声が聞きたくて、今日残りの撮影乗り越えた。だから電話掛け直してくれて嬉しい。」

サラリと話す彼にわたしは言葉が詰まる。

それに気づいたのか、「あ、もうアイドルの俺出ちゃったわ」と笑う風磨。

「そうですね。わたしの知ってる菊池さんです」と彼を意識してることを悟られないよう声を落ち着かせて返した。

「ごめん、本当は用事があって電話した。アイドルじゃない俺も知ってほしいから、一緒に出かけない？」

『え？！いや、それはさすがに…！』

「だめなの？」

そんなに可愛く拗ねた声で言われても…。

『も、もちろんです！！そんな、周りにバレたら…』

だけど、こちらも折れるわけにはいかない。天使と悪魔がわたしの中で戦っていたけど、心を鬼にする。

でも、彼はそんなわたしの行動を先回りしていたのか、「七瀬さんは、俺とおでかけしたくない？」とまた甘ったるい声で聞いてきた。

『そ、それは……。その聞き方はずるい……です。』

「はは(笑)そうだよ、知ってて聞いてる(笑)こう言ったら了承してくれるかなって思って。アイドルの俺は好きみたいだし？」

完全にこっちに選択権が委ねられていて、こっちが優位であるはずなのに、なぜか彼の思うがままになっているみたい。勝敗がすでに露見していて、さすがアイドル、さすが推し、と感動すら覚えてしまう。

「大丈夫。誰にも邪魔できないとっておきの場所があるから。ぜひ、七瀬さんと行きたい。」

こんな嬉しすぎる言葉をかけられて、断れるわけなんてない。頭の中ではこれ以上はダメだってわかっているのに、12年は長すぎた。

小さく返事をすると「よっしゃ」っという声が耳を掠め、なんだかくすぐったくて仕方なかった。