時を越えて ページ9
そうなってやっと言う決心がついて、式を終えた智くんを捕まえて思いをぶつけた。
智くんは一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐにふにゃりと笑ってありがとうおれも好き、と俺を抱きしめた。
でもすぐに、でもごめん……と呟いた。
「おれ、もう引っ越すんだ」
「えっ？」
「おれダンサーになるんだ。だから家出んの」
聞いていなかったことの連続に、驚いて智くんの腕から抜け出して距離をとる。
「そんなの……全然……だって最近までホストになるとかパン屋になるとか、そんなことばっか言って……」
進路の話は聞いても冗談みたいな話しか返ってきたことがなかったのに、彼の中ではきちんと決まっていたらしい。
「ごめん恥ずかしかったんだ。美術科だったからおれのまわり大体芸術系の大学行くか就職するかだったし……友だちにも暫くフリーターってごまかしたもん。だからちゃんと言ったのは家族除けば翔ちゃんだけ」
そう言う智くんの顔は確かに赤みがさしていて、恥ずかしくて言えなかったという言葉に偽りはないことが分かった。
「だから、おれが一人前のダンサーになるまで待っててほしい」
少しだけ申し訳なさそうに、でも真剣な目をして智くんは言った。
これがかわいい女の子なら待ってる、とか、貴方を追っていく、なんて言ったのかもしれないけど、俺の頭には１つもよぎることはなかった。
「それって、何年くらいかかるの？」
「えっあぁーと、じゅう、ねん、くらい……かな？」
「じゃあ今日からきっかり10年後の今の時間にさ、あの駅で会おうよ。智くんは智くんのやりたいこと、俺は俺のやりたいことをやる。それでどう？」
夢を追うことそのものに引け目を感じて欲しくなくてそう言うと、智くんは、翔くんにゃかなわねえなあとへらっと笑った。
「マジ10年がんばるわ」
「うん頑張って。俺も頑張るし、楽しみにしてる」
にっこり笑って言えば、急に智くんが距離をつめてきて、そのまま唇を奪われた。
「ちょっ……いきなり……」
「うっせ、かわいいんだよ、ばぁか。10年後までおれのもんだからな、そこ」
「もう……智くんもだからね」
「わぁってるよ」
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作者名：あやめ | 作成日時：2018年10月8日 0時
