山短編集2(OS) (ページ8)

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時を越えてページ8

ダンサーO×リーマンS
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いない

やっぱり覚えているのは俺だけ。

そして思っているのも俺だけだった。

そうなんでしょ、智くん？

高校の最寄駅の改札口前で、俺は思い人を待ち続けた。

しばらく来ていない間に駅前が再開発されたのか、駅舎自体も駅の周りも自分が通っていた頃より綺麗になってにぎわっていた。

変わったなあなんて感慨に浸っていると、駅構内にある時計が目に入る。

すでに約束した時間から5分は過ぎていた。

きっと覚えているのは俺だけなんだから早く帰ればいいと思うのに、足が一向に動こうとしないのは、10年経っても消えることのないこの思いの所為であることは明白だった。

登校初日、慣れない人波の中で持っていた定期を落とし、狼狽えていたところに声を掛けられるという、今時漫画でもないようなベタな出会いをした俺と智くんは、それからすぐに仲良くなった。

年こそ智くんの方が上だったけれど、後輩の俺にも飾らないで接してくれて、一緒にいるのがとても心地よかった。

この智くんという呼び方も、彼が堅苦しいのは嫌だと言って智くんの友達と同じく下の名前をそのまま呼ばせようとしたのを、呼び捨ては流石に失礼だと抵抗して、最終的に何故かくん付けすることで折り合った呼び方だ。

そういう飾らないところも好きだったけれど、才能溢れるところも大好きだった。

普段は落ち着いていて動きもゆっくりしているのに、体育祭ともなれば軽やかな動きをみせるし、言葉足らずで何も考えてないかと思えば、智くんの絵は言葉では表せないような独特な世界が描かれていて、俺には見えていない、考えられないものが智くんの中にはあるんだと感動した。

この人と共に過ごしてその魅力を知るうち、日に日に尊敬の感情と好きの感情が折り重なって、いつしか特別に好きなんだと自分でもわかるくらいになっていた。

でも男同士だとか、今の関係が崩れるかもしれないだとか、そういうことが気になって中々決定的なことが言い出せずにいるうちに、いつしか智くんの卒業式を迎えていた。