八話 ページ8
「これね、叶へのラブソング」
照明によってキラキラと綺麗に光る瞳でこちらを見据える幸。その表情は至って真剣なもので。思わず驚きでドキリとした。過去の交際相手達をこうやって落としてきたのだろうか。ふざけているのか本気なのかいまいち分からず、戸惑いで何も言い返すことが出来ない。
向かい合わせで座っていたが幸は俺の隣へ移動してきた。お互いの肩がついてしまう程の距離。いつもこいつは距離が近い。それでも幸は真剣な表情のままで。
「……」
お互い何も言葉を発することもなく。
少し反応に困っていると、彼はふにゃりと表情を崩した。いつもの幸だ。へへへ、と笑い声を漏らし「自分で言ってて恥ずかしいわ…」なんて頬をかく彼に、俺は何となく安心した気持ちになった。
「……ほら、歌始まるぞ」
「あー! 本当だ!」
慌てて歌い始める姿に苦笑する。先程の真剣な様子からの変わりように驚きつつも彼の歌声に耳を傾けた。
お世辞にも上手いとは言えないがマイクを握りしめ歌う姿は本当に楽しそうで。思わず俺も笑みを浮かべた。
さっきの言動、やっぱり少し驚いたな。疲れを吐き出すかのように溜息をつき、ぽやんと考える。あんなにも真剣な顔をする幸は初めて目にしたかもしれない。
しかし、好意を寄せられれば寄せられる程申し訳ない気持ちでいっぱいになる。幸の気持ちには答えられない。早いとこ俺の性格にでも幻滅して手を引いてくれれば有難いのだが。…俺は幸が思っているような男ではないだろうし。
ああ。そういえば俺に向けたラブソングだとか言ってたっけ。幸が歌う曲の歌詞に自分達二人を重ねてみる。いまいちピンと来ない。恋愛経験の少なさもあるとは思うのだが、それ以前に俺達二人は男だ。俺は同性との恋愛を正直想像すらしたことがなかった。
「みてみて叶!六十七点!」
カラオケでその点数はあまり見ないような。瞳をランランとさせ採点画面を指差す姿に苦笑すれば、すげーじゃん、と手を叩く。自慢げに彼は腕を組んで見せた。
褒められたせいか嬉しそうにニヤニヤする幸。自分と同じ位の背丈をした彼の子供のような態度に思わず吹き出す。如何にも男子高校生といった見た目をしているが、中身だけはまだまだ成長途中のようだ。
笑い声を漏らしながら俺は彼の頭へ手を伸ばした。正直無意識の内だった。動物のようにふわふわした髪を手で撫でる。
「か、叶……?」
「え? あ……」
幸に名前を呼ばれハッとした。
何やってんだ俺。
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青猫(プロフ) - 全然待ちますよ!作者さんのペースで大丈夫です!( ´▽`) (2021年7月23日 14時) (レス) id: fe631de70d (このIDを非表示/違反報告)
はたらま(プロフ) - 青猫さん» 更新の度コメント下さり有難う御座います!更新が遅くて本当に申し訳御座いません。今後少しずつ更新頻度を上げていこうと思っておりますので、気長にお待ち頂けると幸いで御座います。 (2021年7月23日 13時) (レス) id: 99dee8af5b (このIDを非表示/違反報告)
青猫(プロフ) - 更新ありがとうございます! (2021年7月23日 11時) (レス) id: fe631de70d (このIDを非表示/違反報告)
はたらま(プロフ) - 青猫さん» 更新する度に青猫様からコメント頂けて更新の励みになっております。有難う御座います。あまりに遅い更新では御座いますが、今後もご愛読頂けると幸いです。 (2020年11月2日 23時) (レス) id: 99dee8af5b (このIDを非表示/違反報告)
青猫(プロフ) - 通知きたとき叫びました!w忙しい中更新ありがとうございます!(*´∀`) (2020年11月1日 17時) (レス) id: fe631de70d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はたらま | 作成日時:2016年8月12日 11時