五話 ページ5
毎日のように桜井は俺に愛の言葉をぶつけてくるようになった。好きだの愛してるだの聞いているだけで恥ずかしくなる。
そして、俺はあの三人グループの仲間入りをしていた。俺がなりたかったわけではないのだが、三人の中心である桜井が俺に寄ってくると自然と他二人も近付いてくる。別にこの三人が嫌いなわけではない。真っ先に俺に居場所をくれたから。
「叶、これちょうだい」
転校初日と同じように、四人でいつも俺の机を囲み昼食をとっている。何故こんなにも仲良くしてくれるのか不思議に思うが、俺はこの賑やかな三人といることがわりと気に入ってしまっていた。
正面にいる桜井が俺の弁当箱から卵焼きをつまんで口へと運ぶ。勝手に食うなよと抗議していると、鬼塚は何か違和感に気が付いたのか口にした。
「あれ? そういえば名前で呼んでるんだな、幸」
そういえば。俺も気が付かなかった。幸せそうに卵焼きを頬張る彼へと視線を向けると、こくこくと頷いた。喉を上下させ卵焼きを飲み込めば、見慣れた輝くような笑みで俺の頬に触れる。
「だって俺、叶のこと好きなんだもん!」
「意味分かんねえし……頬触んなよ」
転校から一週間ほど経ったが未だに桜井の積極的な行動に慣れることが出来ない。頬を包む少し小さめの手から温かさと心地よさを感じ無意識に俺は目を薄めていた。
何となく手を振り払う気にもなれず、俺らは何故か数秒見つめ合う。睫毛長いなぁとか目が大きいなぁなんて考えていた。すると、「イチャイチャすんなよー」と鬼塚と桃岡に肩を揺さぶられる。ハッとし俺は顔を振るようにして手を払った。
決して好きだとかそんな感情は抱いていない。俺はただ綺麗な顔だと改めて思っていただけだ。美しい絵画や彫刻等を鑑賞しているような気分だった。
「あのさ、俺のことも名前で呼んでよ。ね?」
「あ! 俺も俺も!」
「おー、俺のことも桃って呼べよ」
一気に三人に詰め寄られ思わず驚き黙り込む。嫌というわけではない。むしろ喜びを感じている。自分は別にこれといって取り柄があるわけでもないし、優しくもないし、人を集められるような面白いことを言える人間でもない。それでもこうやって仲良くしてくれる親切な人もいるものなんだなぁと思った。
「おう。笑、桃、幸」
まぁ、要するに現在の俺の高校生活はわりと充実しているということである。
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青猫(プロフ) - 全然待ちますよ!作者さんのペースで大丈夫です!( ´▽`) (2021年7月23日 14時) (レス) id: fe631de70d (このIDを非表示/違反報告)
はたらま(プロフ) - 青猫さん» 更新の度コメント下さり有難う御座います!更新が遅くて本当に申し訳御座いません。今後少しずつ更新頻度を上げていこうと思っておりますので、気長にお待ち頂けると幸いで御座います。 (2021年7月23日 13時) (レス) id: 99dee8af5b (このIDを非表示/違反報告)
青猫(プロフ) - 更新ありがとうございます! (2021年7月23日 11時) (レス) id: fe631de70d (このIDを非表示/違反報告)
はたらま(プロフ) - 青猫さん» 更新する度に青猫様からコメント頂けて更新の励みになっております。有難う御座います。あまりに遅い更新では御座いますが、今後もご愛読頂けると幸いです。 (2020年11月2日 23時) (レス) id: 99dee8af5b (このIDを非表示/違反報告)
青猫(プロフ) - 通知きたとき叫びました!w忙しい中更新ありがとうございます!(*´∀`) (2020年11月1日 17時) (レス) id: fe631de70d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はたらま | 作成日時:2016年8月12日 11時