49. 風刃 ページ10
――私の認識が甘かった。
開幕した黒トリガー争奪戦。
直前まで接戦になるだろうと予想していた私の読みは大きく外れた。
ありえない速さで薙ぎ倒される隊員と、疾風の如き剣速で戦場を翔ける男。
チリのように斬り捨てられた隊員は決して弱くはない。
あっという間と表現する他にないほど、結末は早かった。
「驚きました。
こんなに強かったんですね、迅さん。」
フェイント、防御、攻撃、カウンター……そして読み。
恐らくは全てにおいて及ばない存在に、圧倒された。
彼は師匠の形見らしいそれを静かにホルダーに納める。
壁に寄りかかり、俯いたまま彼は話し出した。
「Aちゃんは、隊組みにいかなくていいの？
フリーなんでしょ？ 今。」
騒めく構内は、急遽チームを編成しようと奔走する人たちで溢れている。
東の努力によって、何とか争いには発展していないのが幸運だ。
「あなただってチームランク戦には参加しないのでしょう。」
ブラックトリガーを所持した人は、隊編成もランク戦の参加もできないらしい。
「一回くらい対戦してくれても良かった思いますが？」
「頼んでも戦ってくれなかったでしょ。」
「それも、そうですね。」
「……。」
「……。」
私の回答を最後に、しばらくの沈黙が訪れる。
迅さんは、普段からそこまで口数が多いわけではない。
けれど、口数が少ないと言うわけでもなく、ここまで黙り込むのは珍しい。
ホルダーにしまった後も左手を添えるそのトリガーが、彼にとってどけだけの価値の人のモノだったのかは知らない。
大切な人を亡くしことのない私に、その気持ちを理解するだけの情緒は埋め込まれていないようだ。
それでも存在を確かめるような、あの動作に何も感じないのかと言われればそれは違う。
下を向き視線の合わないまま口を開いたあの男の表情が、快いものでないのも想像に難しいことではない。
だから、決してこれは軽率な気持ちで聞くのではないのだ。
「……
「それは……。」
言い淀む彼は、ようやく顔を上げた。
「それは、勿論。みんなを守るためさ。」
いつも通りヘラヘラと笑う顔は、いつも通りの迅悠一を完璧に作り出していた。
「……『つまらない答え』ですね。」
そんなこと言うなよ、と困り顔をする彼はすっかり平常運転。
残念。
弱みを握るチャンスだと思ったのに。
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origamisakura(プロフ) - ばぐさん» 連日ワートリの関連ランキングに載っていらっしゃる作者様に見て貰えているとは恐縮です！綺麗な文章だなんてとんでもない。お褒めいただいて嬉しいです。コメントありがとうございます！ (2020年12月9日 0時) (
レス) id: 6da1c3afc2 (このIDを非表示/違反報告)
ばぐ(プロフ) - コメント失礼します。とても綺麗な文章と素敵な展開に感動しました。更新楽しみにしています。頑張ってください！ (2020年12月8日 19時) (レス) id: a81a0b3a5c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：*佐倉照* | 作成日時：2020年12月3日 7時
