押してダメでも押してみろ【宮侑】

10.惨め ページ10

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「つっかれた…」




勤務終わりの午後7時。

早々に切り上げて丸の内線で帰路に着く。


疲れた顔のサラリーマンと共に電車に揺れて、
ようやく最寄りについたのが7時30分。


車出勤に変えようかな、なんてボヤきつつ、
ひしめき合うサラリーマンの間を縫って階段を降りると




「…A？」




すれ違う声に、反射的に振り向いてしまった。




「……金石さん」




目の前に映るはかつての恋人、金石丈。




「なんだよその呼び方〜めっちゃ他人行儀〜」

「……とっくに他人ですよ」




大学時代に知り合って、付き合って3年。


大好きだったの。

大好きで大好きで、いつか結婚するんだって思ってた。


信じられる？
3年もの間、自分が(・・・)浮気相手だったなんて。


あの日、金石さんの前から姿を消したこと、
後悔なんてしてない。

あの時の私の判断は間違ってなんかいない。




だけどね、


彼のくれた優しさが、温かい腕が、安心する声が。




______…嘘だったなんて信じたくないの。




「………なぁ、悪かった」

「……別に。もう関係ないです、私には」




彼以上に好きな人なんて現れなかった。

どうしても忘れられないの、どうしても比べちゃうの。




「…俺、今度結婚することになった」






ガツン、と頭を殴られたような気がした。






「…………だったら、なんなんですか」







______…あぁ、なんて惨めなんだろう。








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