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けれどどこかで、
夫としての威厳を、
権利を、

優先されているのは
俺の方だということを
その男に、
わからせてやりたかったのかも
しれない。


所詮、不倫。


電話に出た妻の呼吸が
一瞬乱れて、
一緒にいることは明白だった。

妻はこれから
スーパーに寄って帰ってくる。

───帰ってくるはずだった。


時計が、0時を回る。
握りしめた携帯が鳴らないまま。

言い訳もせず、
戻らないということが
どういうことなのか、

考えて、

考えて、

考えなくても出ている結論に、
抗って、考えた。

マンションの前。
深夜2時。
見上げた。

ベランダの奥の明かりは
消えていて、
妻の影すら映すことはない。


ジュン「ああっ!!!!!」


地面に向かって叫んでいた。
ハッとして急いで逃げる。


───逃げる。


悪い夢から、逃げる。

妻は、
どうするつもりなのだろう。

今夜はドラマチックに過ぎて、
まるで新しい朝がきて、


・・・それで?


どうするの?


妻はわかっていないんだ。
平凡を生きてきたから。

まるでハッピーエンドのような
今日も、
通過点でしかないんだよ。

人生は続いていく。
生々しく。

法的に俺の妻であることに
変わりはなく
それを否定する権利すら
失ったのだということを、
わかっているの?

いい夫で居続けた数年間は、
決して無駄じゃなかった。


誰にも渡さない。


───昼。

ガチャ、
っと玄関が開く音がした。

ソファーから立ち上がって、
玄関に向かう。

妻が驚いている。
俺はそれを見て笑う。

ジュン「お帰り。
どうしたの、そんな顔して。」

立ち尽くす妻の腕を掴んで、
グッと抱き締めた。


ジュン「・・・渡さない。
別れろとは言わないから、
このまま、俺の妻でいて。

いつもの日常に戻ろう。

愛してる。」




─────Fin.

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作者名:クムシラコネルミ | 作成日時:2020年7月13日 9時

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