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ジョングクの家に車を走らせている最中も、彼は静かだった。
やっぱり、結婚を前にした男が浮かべる表情じゃない。
「……ねぇ、何かあったの？」
メンタルケアもマネージャーの仕事のうちだ、と悲鳴をあげる心は無視して言葉を放つ。
「…………ん？」
俯いた顔を上げるジョングク。上の空で聞いていなかった、というような反応だ。
「最近メンバーから聞くよ、集中力がないって」
「ん……そうだね、よく怒られる」
はは、と力なく笑うジョングク。
やっぱりおかしい、叱られたらちゃんと反省する性分じゃん君は。
「でも大丈夫。大した理由じゃない」
「集中を欠くようなら大した理由だよ。
ねぇジョングク、プロでしょ？メンバーにもそう言って一喝することあるじゃん」
ジョングクの自宅の駐車場に着いたけど、話は終わってないから鍵は開けてやらない。
「悩み事なら吐き出してしまった方が楽じゃないかな。抱え込んでたら何も解決しないし」
もし結婚することに悩んでるなら、しなくていいよ、って言ってしまいたい。
そんな下心を覚える自分がつくづく嫌だと思いながら言葉を続ける。
「切り替え時だよ、ジョングク。ARMYも心配してる」
彼の大事な存在まで引き合いに出してきた、最低な女だ。
思考の隅で誰かが言う。
いいじゃん。
それでもさ、好きな人のしんどい顔見たくないんだよ。
「…………今日、記念日だったんだ」
ぽつん。と。
雫のような声だった。
「どうしても今日、渡したくて彼女の家に行ったんだ。受け取ってくれたけど“予定あるから”って扉閉められちゃった」
はぁ！？って叫んでしまいたかった。
恋人との記念日に他の予定入れるって何なの。何、それ。私なら、私なら絶対そんなことしないって、怒りたかった。
「悲しかった。彼女からのプレゼントがないからとかじゃなくて、俺ってその程度の存在なのかなって」
透明な涙が、彼の頬を滑り落ちていく。一滴こぼれただけのそれに、たくさんの感情が詰まっているように見えた。
私ならそんな顔させない。悲しませない。私なら――――、
「ごめん、変な話聞かせて。送迎ありがと、また明日！」
歪な笑顔を見せてジョングクはさっさと車を降りてしまった。
「…………馬鹿」
弱味につけこませてよ。手持ち無沙汰の愛を伝えさせて。
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作者名：レオレ〇●〇 | 作成日時：2024年1月27日 22時
