ばんたん短編集 (ページ8)

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🖤一瞬の邂逅ページ8

雨の日だった。
ホテルからちょっと歩いたところに美味しそうなコーヒー屋があると聞いたので、スタッフさんに傘を借りて歩いて行ってみた。
少し古っぽい静かなお店で買ったアイスアメリカーノを飲みながら、ホテルへと戻っていると。

「――〜〜――――♪」
「……ん、」

この雨の中、街灯に傘を括りつけてアコースティックギターをかき鳴らして弾き語りしてる人がいた。
アミに見つからないように、できるだけ顔が見えないよう差している傘の角度を変える。
歌っているのは女性だった。おそらく、まだ少女と言った方がふさわしいくらいの風貌の。
そう、きっと幼い。なんだけど、

「……上手い」

ギターの音も、歌声も。磨けば光る原石のような逸材だった。
雨だというのにこんなところでやっている辺り、事務所にも入ってないんだろうか。こんな上手いのに、すげぇのに。

(いつか名前が売れて、好きな時に聴けるようになったらなぁ)

そう思い、応援の意味を込めて財布からゼロが4つ並んでるお札を取り出して、彼女の足元の箱に突っ込んだ。
彼女は歌いながら俺を見てぺこりと頭を下げた。俺も頭を下げ返してまたホテルへの道のりを歩いていく。
数m歩いたところで、背中から聞こえてた歌声とギターの音が止んだ。え、と振り向けばギターを抱えたままの少女が何かを持ってこちらに走ってくる。

「あの……これ、お間違えでは！？」

彼女が俺に差し出したのはさっき俺が彼女の足元の缶に突っ込んできた一万円札。返しにきたんだろうとは予測できたが……何故？

「1000円とお間違えになったんじゃないですか……！？」

おまちがえ、間違えたってこと？俺が何を……あぁ、なるほど。

「おー……ちょと待ってくだサイ」

手を伸ばしたとこにある日本語の引き出しにいい感じの言葉が見つからなかったので、スマホを取り出して音声を入力して翻訳してもらう。

『あなたの音楽はとてもいいです。このお金は自信にして持っていてください』
「……！！」

伝わったんだろうか。少女の目がみるみるうちに見開かれ、黒目がじわりと揺らいだ。
一瞬俯いた彼女はすぐに顔を上げる。

「ありがとう、ございますっ。私、がんばります！」

勢いよく頭を下げて、それからにこっと笑って彼女は歌っていた場所へ戻って行った。また聞こえてきた歌声とギターの音を背に、俺もホテルへ歩き出す。

数年後、日本の音楽番組にて再開した話はまた今度。