ばんたん短編集 (ページ6)

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💚愛されたがりの君ページ6

映画を観てる時、それまでは気にならないけど主題歌とかエンドロールが流れ始めると途端に気になるよね。隣の人のすすり泣き。

「……テヒョンア、大丈夫？」
「だっ、いじょぶじゃな……ぐずずっ」
「おー世界一の顔がぐちゃぐちゃだよ」

箱ティッシュを渡すと思い切り鼻をかむテヒョンア。わぁ豪快。

「あんまり擦らないでね？赤くなるよ」
「う゛ん」

鼻かんだり涙を拭ったティッシュをその辺に投げるから、投げた先からゴミ箱に入れていく。元々半分くらい入ってたのがこんもり山盛りになった所でようやく落ち着いたみたいだ。

「落ち着いた？」
「ん……」
「テヒョンアは感受性豊かだねぇ」

パーマがかかってもふもふした頭を自分の肩に寄りかからせる。可愛い恋人さんはくぅん、と喉を鳴らして擦り寄ってきた。可愛い。

「テヒョンアー？」
「うんー？」
「なーんで服の中に手を突っ込むのー？」
「あったかいからぁ」
「じゃあそれ外す必要ないよね？こら、手を抜け」
「むぅ」

隙あらばそういうことしようとするんだから、こやつは。

「だってぇ……Aがいなくならないか、心配で」

うるうるした瞳で見つめてくるテヒョン。これが策略とかじゃないんだから恐ろしい。
何で急にそんなこと言い出したかって、多分観てた映画の内容に引っ張られたんだろう。恋愛映画なんだけど、夢を追っかけるために二人は別れちゃう……って結末。
馬鹿だなぁ、私はこの映画のヒロインみたいな大層な夢なんてないよ。離れる理由なんてない。
感受性が豊かで、世界観に入り込み過ぎて、染まってしまうことも多いテヒョンだからこそこういう事を考えてしまうのは知っている。

「大丈夫。私はここにいる」
「ほんと？嘘言っちゃダメだよ……僕が寂しがりなの知ってるでしょ？」

するり、と骨ばった指に手の甲を撫でられる。妖艶な意味を持ったその手つきにびくりと身体が強ばった。

「て、ひょんあ」
「ダメだぁ今日の僕……一度考えた事が嘘でも本当みたいに心の中ぐるぐるしてんの」
「ね、てひょ、」

首筋に当たるやわらかな感触に喉が震える。怖いとかじゃなくて、もっと違う別の感覚。

「A」
「……ぅん」

甘えた声音。その奥に秘められた怯えを感じ取ってしまった私は、目を閉じた。彼の寂しさが根元からなくなってしまえと願いながら。