きねんび ページ28
あっという間に訪れた1年記念日。そんな大事な日にも関わらず俺らには動画以外の仕事が入っていた。絶対に早く帰りたいと焦る日ほどなかなか帰れず、希望帰宅時刻を大幅に超えて18時になろうとしている。玄関の扉を開けると美味しそうな香りが漂いリビングからパタパタとスリッパの音が駆け寄ってきた。
『あ、おかえり!』
エプロン姿のAさんを見た瞬間、脳回路が壊れたかと思うほどの激しい感情が湧き上がりそのまま彼女を壁に押し付けて唇を重ねていた。彼女の手が二の腕を掴み、背中に回った腕が更に愛おしさを感じさせる。執拗いほどにAさんの唇を味わった後名残惜しさを感じながら身体を離した。
『私の事好きすぎです』
カ「早く会いたかったです」
『私も』
もう一度口付けをくれた彼女は照れくさそうに笑いながら俺の手を引いてリビングに入った。テーブルの上には2対敷かれたランチョンマットと高そうなシャンパンにグラス、そして料理が並んでいた。
カ「えっ!作ったんすか!?」
『彼氏大好きディナー作ってみた』
カ「ええ...凄すぎ...」
すぐさま携帯を構えた俺の撮影会を横目にAさんはカトラリーを準備する。美しいレアで焼かれたカットステーキにホワイトシチュー、カプレーゼとサーモンのカルパッチョ、更にはアヒージョまでオシャレな皿に可愛く盛り付けられてる。危ない危ない、危うく結婚を申し込んでしまうところだった。だってこんなの俺のものにしておかないと危なすぎる。誰かに間違って取られたら俺その時こそ死ぬわ。
カ「...いや、まじで、俺もっと頑張りますわ。」
『え?なんで?笑』
カ「死にたくないんで」
『何の話?笑』
完璧な料理と完璧な彼女に惚けていた俺は手元の荷物を思い出した。
カ「あ、これ...」
紙袋から彼女へのプレゼントを取り出すと大きな瞳を丸くして満面の笑みを浮かべた。
『えーー!お花じゃん!買ってくれたの?わざわざ?』
カ「1年ありがとうございます」
『うえ〜!?嬉しい!!ありがと〜!!』
花とか定番すぎてキモイかななんて考えていた俺の不安を吹き飛ばすほどに喜んでくれるAさんは早速テーブルの真ん中にお花を飾り始めた。良かった下に籠付けてもらって。
『手洗ってきて、早く食べよ!』
カ「すぐ戻ります」
手を洗って顔を上げた俺は鏡に写った自分の顔を見てびっくりした。何だこの情けない程にだらしない顔は。相も変わらず彼女にメロメロで困ってしまう。
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作者名:ぴあ | 作成日時:2022年7月22日 20時