やさしいせかい ページ36
リハビリです、やさしいきもちで読んでくださると幸いです。
「A」
「おはよう、」
目が覚める。
自分の悲鳴が頭の中にまだ反響して残っていた。
振り払うように頭を上げると、目の前には金髪碧眼、黒い軍服を纏った彼が、背景には白がどこまでも広がっていた。
状況を上手く咀嚼できない私に、目を細めた彼は問いかける。
「さてここで問題だ。」
「夢は夢でもーーーー」
「やめて、」
耳を塞ぐと、まるでなにかに押さえつけられたように彼は黙った。
「それ以上、聞きたくない。」
彼が言おうとしていることなんてわかっていた。ただ、彼の口からその言葉が出るのが怖くて仕方がなかった。
彼は優しい表情で怯える私の手を掴む。塞いでいた手を緩めると、彼はゆっくりと囁いた。
「なあ、俺はお前の定義する「優しい」俺だゾ」
「何がいけないんだ？」
「あなたは…グルッペンは、他の人みたいにはしてくれないから」
「そうだろうな」
「俺は他の奴らのようにはできない」
「お前の思う「俺」はお前を甘やかしたりしない、そうだろう？」
手を引かれる。
「さあ、出口はこっちだ。」
「…まだ、行きたくないって言ったら？」
「俺がどうするか、聞く必要があるのか？」
「……」
白い背景の中、一カ所、浮くように扉がひとつ。よく見慣れた扉。
グルッペンはドアノブに私の手を置き、背中を押した。
「達者でな、」
ガチャリ、と、押し込まれるように扉の向こう側へ体が沈む。
「……俺も、あいつらみたいに甘やかしてやれれば良かったんだがな。」
背後からそんな呟きが聞こえて、音が途切れた。
*****
「う、」
頭が痛い。耐えかねて体を起こすと自室だった。淀んだ空気に顔を思わずしかめ、窓を開ける。
ふと、机の上のパソコンの画面が目に入った。
書きかけの小説、のはず。だが、書いた覚えがない。長い放置のせいで内容を覚えてないないだけだろうか？
なんにせよ、こんな話はボツだ。無条件の優しさなんて与えられないし、こんな夢みたいな、
「…ああ、」
頭痛が収まった気がした。
「夢は夢でも、眠って見る夢も将来の夢も、白昼夢も夢物語も、全部同じ夢なんだもんなあ。」
マウスに置かれた自分の手を見る。5本の指が視認できる。夢と現実の見分け方、だっけか。
「私の人生は夢みたいにはならない、けど、だから、夢を見るんだ」
これは小説じゃなくてポエムだな、なんて苦笑しながら、私はパソコンの画面を閉じた。
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