あんたのうまれたひ ページ32
ぞむさんのばあい
「ハッピーバースデー！A！」
今日も1日疲れてちょっと豪勢なご飯をスーパーで買って家に帰って我々だの動画でも見ながら晩酌じゃい！！！と玄関を開けたら上からゾムと紙吹雪が降ってきた。
「へ？」
もちろん思考が停止した。
注釈をつけるなら、彼は画面の向こうの存在で、話した事もなければ会った事もなかった。
「ぞ、ぞむ、さん…ですか？」
「せやで！誕生日おめでとう！A！早よ中入ってーや！」
慌てて靴を脱げば、ぽかんと口を開けた私の手を優しく引いてゾム…ゾムさんは家の中に入っていく。
この状況は、一体？
大体緑のクリーパーカーツナギと声でゾムさんと判断したけれどお顔は二次創作で見るような超絶イケメンだし大体服が生放送で見たときみたいにパンパンじゃないし、
「じゃーん！今日は好きなだけ食べてな！」
顔を上げれば机の上に胸焼けしそうな程沢山置かれたケーキ、デザート、料理、の山、山、山。
「折角用意したんやし、全部食べてくれるよな？」
「え…」
「くれるよな？」
「はいぃ…」
これが噂の食害というやつか！いやそんな事言ってる場合じゃなくて！
「ほらほら座って座って！今日の主役はあんたやで！」
椅子を引かれて流れるように座らせられると目の前に紙皿が置かれてゾムさんが容赦なく料理を置いていく。
どこか、懐かしいような、自分の好物ばかりが置かれているのに積み上がっていく料理を眺めながら気がつく。
「あの…」
「ん？」
「私とゾムさんって、お知り合いでしたっけ…？」
「ちゃうで？」
次の言葉を告ぐ前に一口分が乗ったスプーンが差し出される。
「はい、あーん」
「いただきます…？い、いや、自分で食べますよ！」
「あーん」
「……あの、」
「じゅー、きゅー、はち、ななー」
「あ、開けます！開けますから！」
謎のカウントダウンに怖くなってどうにでもなれ！と目を瞑って口を開けば、舌の上に優しい、やはりどこか懐かしい味が広がった。
「…おいしい。」
「せやろ？」
次が差し出され、もはや抵抗する事もなくもう一口頬張ればまた懐かしい味が広がっていく。
「今日はあんたのうまれたひ。今日はあんたを誰もじゃまできへんしあんたはいくらでもわがまま言ってええんやで。」
暖かい安心に、心も体もぽかぽかしてきて、唐突に眠気が襲ってきた。
ああ、夢オチってやつか。
でも、幸せな夢だった。
今日だけ、夢の中でだけ、私のうまれただけの日を、めいっぱい愛そう。
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