欠けていた ページ22
どこか心の底で、決断をしなくてもこの無事の延長の日々が続くと信じていた。
真昼間に会社に向かい、いつものように書類を回収して車に乗り込む。
「あれ、ロボロやん。エミさんは？」
「ん〜？なんか異動になったらしいで。不穏な行動しすぎたんやろ」
「へえ、なにやったんエミさん」
「…お前もわかっとるやろ。お前も疑われとるで。」
逃げるなんて無理なんや。と呟いたロボロはいつもより乱暴にアクセルを踏むと現場へ車を走らせた。
暫くの無言の後、現場の直前になってからロボロは思い出したように呟く。
「あ、そういや、」
「ん？」
「今日の夜、もう一件仕事あるらしいから帰りも送るで」
「わかった、頼むわー」
真昼間の仕事はあまり力仕事ではなく、毒やら事故やら自然を装ったものが多く、神経は使うが体力は使わないものが大半のためもう一件あるのも別におかしくはなかった。
今日の場合はオーバードーズを意図的に引き起こさせるものだったので比較的楽やったなあと会社に戻れば、誰もいないオフィスの俺の机に無造作に書類が1枚置かれていた。いつものように確認のため書類を持ち上げて、目を通して、
彼女が、次の目標だった。
元殺し屋、現在は足を洗っているが怪しい接触が見られ、かつ過去に様々な恨みを買っているため幾ばくかの賞金すら懸かっている。
要約すればそんな淡々とした、俄かに信じがたい文章が書類には敷き詰められていた。
彼女は、彼女も、人殺しで、
それでも彼女は変わった。
変わったけれど、過去は彼女の脚を掴んで、制裁の沼へと引きずり込もうとしている。
その様子はまるで、決断した後の俺を示唆しているようで。
「ああ、ようやっとわかったわ。」
「変わる道を、善くある決断を選んでも、あんたも、エミさんも、俺も結局んとこ、」
「それを守り抜く力がなかったんやな」
ポケットの中の凶器を握りしめる。
俺がここで彼女を殺さんくても、いつか誰かが彼女を殺すやろ？
それを守る力がないなら、彼女の最期を決めるのは俺がええよな、
そうやろ、
なあ、誰か、肯定してや
痛いくらいの沈黙の中、彼女が待っているであろう家のドアを開けた。
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