覚めない夢を視よう ページ11
げんだいうつしてん
メリバですメリバ
ざあざあと文字に書いたような雨が降る梅雨のある日、僕は運命の人と出会った。
なんや、あんな雨ん中突っ立っとるなんてメンヘラか？
激しい雨の中、自身も傘を盗まれた為走りながら前方の女性を疚しい興味から観察する。メンヘラと目を合わせたらいけないという気持ちと下卑た興味が相反して視線を動かす僕は自覚は全く無かったが端から見たら挙動不審だっただろう。事実次の瞬間にあることに気がついて情けない声を出したため誰かから指摘されても言い訳はできなかったろう。そのくらい動揺していた。
彼女は、全く雨に濡れていなかった。
近づいたらあかん、直感的にそう思った。メンヘラではなく、より関わってはならないものだ、駆け巡る思考に脚を早めようとした。
が、彼女は、こちらに振り向いた。
情けない声を出していたため当然だろう、と思うのは今だからだ。そのときはただただ得体の知れないものへの恐怖で頭がいっぱいだった。早く走って、逃げなければ。それしか考えていなかった。だから彼女の言葉はまさに寝耳に水だった。
「あの、」
「傘いります？」
また情けない声をあげて彼女の方を見ると、雨で暗いながらほんのりと赤い頬、艶のある髪から覗くあどけない顔が見てとれ、あまりに悪意の感じられない普通の人間にどこか毒気を抜かれた僕は立ち止まった。
「ここ、傘落ちてるんですけど…あ、視える人なんですか？」
視える？幽霊かなんかか？
困ったように言った彼女は僕の方を遠慮がちに覗き込む。彼女の双眸に映り込む僕の双眸には彼女はいない。だが、僕の網膜は彼女をしっかり捉えていた。矛盾にキャパシティを超えながらも脳は返事をしようとした結果、
「きみは…悪霊？」
女性にも幽霊にもかけるには余りにも情けない言葉が零れた。すぐにこの発言は明らかに気を悪くするだろうと焦ったが、彼女はけらけらと邪気のない声音で笑った。
「悪霊に見えますかね？自分もわからないんです。」
笑いながら淵に寂しさを忍ばせた彼女はやはり普通の、いや、思わず手を伸ばしたくなるような、異性で、人間だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 9人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
