あの人は死なない ページ1
鈍い音がした。
火薬の詰まった鋼鉄の塊に吹き飛ばされたあの人は、けろりとした様子で立ち上がった。
「げほっ…いつになったら死ぬんですか、総統？」
「もうちょっとだと思うんだが死ねんな」
はて、死とはもっと重たい概念だった気がするがどうにも彼と私の間ではふわふわと浮きあがっているようだ。
「アカシックレコードを読んだ預言者によると、俺に愛するものが出来たときに死ぬらしい」
「だからって愛する人ができないと死なないって絶対論理わかってないですよ」
「俺は絶対条件と必要条件くらいわかってるゾ、それよりも事実はそうなのだから付き合ってくれないか」
「愛してないじゃないですか」
「しかしお前は俺を愛しているだろう」
「そうですけど」
この人ーーーグルッペンの事を私は好きで、愛している。それは紛れもない事実であり、この人に対する弱味でもある。惚れた弱みと言えば聞こえがいいが向こうはそれを理解してこき使ってくるのでたまったものじゃなかった。しかも最終的には付き合えとまで言ってくるなんて。
正直言えば、付き合うのは本望なのだ。しかしそこに愛がない関係など誰が欲しがろうか。
愛がなくとも付き合いたいと思っている自分を無視しつつもうひとつ、矛盾を持て余す。
この人と愛ある関係になる、それはこの人の死とイコールで結ばれている。
それでも、愛が欲しい。
そんな矛盾。
「時間は短い。お前はもう…長くはないだろう。そうでなくとも戦火の中にいる俺たちに安息はない。」
人の命など儚いものだ、それはこの人生の中でわかっていた。
だから、希望なんて持たずに早く消え去ってしまいたかった。
生きていれば、待っているあの人がいる。
そうやって引き留める心が私を生にしがみつかせていた。
「さあ、選べ。」
「俺と付き合うか、否か。」
「選ばないのは…無しですか…？」
「選ばないという選択肢を選ぶならそれもいいだろう。ただその自覚は十分にしておけよ。」
「…ええ。」
くるりと背を向けた瞬間、また鈍い音が聞こえた。遠く視界が真っ赤に染めあがる。
これで2発目だ。
またけろりとした様子で、しかし表情を歪めてあの人は、あの人だけは立ち上がる。
「返事は来世でさせてくださいね」
げほ、ともう一度血反吐を吐くと、漸く本来の重たさの死の概念がのしかかってくる。
眠気に目を閉じると、最期に愛しいあの人の声が聞こえた。
「…お前に愛を囁くために、死ぬ勇気がなかった俺を許してくれ。ーーー」
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