あなたのいる世界で笑ったこと―――【影山飛雄】

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いよいよ、最後のページがやってきた。
もう伝えられる事のない、最期のメッセージ。

喧嘩した事も、一緒に泣いて、怒って、笑った事も。
全部俺の大切な記憶で、もう戻る事のない思い出たち。

そんな瞬間も、日常も、全て。
彼女の言った事と同じように。


俺も、橙乃Aという一人の存在を、最期まで、あの瞬間まで、愛していた。


病室で見た、何もかも洗い流していくような夕焼け。
彼女はずっと泣いていて、俺に縋っていて、そんな俺も悟られまいと涙を流して。
それを、夕日は優しく、残酷に照らしていた。

俺がギターを弾いて、彼女が歌って、笑い合った『オレンジ』。
いつも同じとこで一緒に間違えて「弾きなおすか」って何度も練習した。
文化祭でのステージの歓声は、今でもよく覚えている。

夏祭りの、りんご飴。
水色の浴衣を着た彼女はとても綺麗で、りんご飴を食べている姿がとても愛おしくて。
「浴衣、似合ってる」なんて言ったら、顔を赤くして「ありがと」って言ったんだっけ。

この記憶は、絶対に消えたりしない。
こんな、思い出すだけで泣きそうな記憶たちは。
視界が、涙でぼやけていく。

もし忘れたとしても、きっといちばん最初に思い出す。
そりゃ、生まれ変わったらわかんないのは当たり前だけど。

あいつがこの世からいなくなってすぐは、何にも興味が湧かなかった。
大好きなバレーも、ギターも、何もかも手放したくて、壊してしまいたくて。
全部終わりにして、無くしたかった。

でも。
ゆっくり生きて、報告しにいくよ。
ちゃんとした仕事に就いて、お前以外にも愛する人を作って、守るべき存在に出会って。
きっとバレーも趣味で続けるだろうし、もしかしたら仕事としてもらえるかもしれない。
オーバーワークを止めてくれるのは、お前だけだったし。

危ないことは、きっと昔の話だ。
確かに木登りして落ちかけたし、ブランコから飛び降りるなんて馬鹿しようとしたけど、それはガキの頃の話だ。
たしかに、全部止められたけど。

それだけ、昔から見ていてくれたから。
それだけ、一緒にいたから。


『そして。私は、あなたの幸せを。どこの誰よりも、ずっとずっと、願っているから―――』


両の目から、雫がぽたり、ぽたりと零れていく。
それはノートに透明な染みを作って、くっきりとあとを残す。

「A…ッ」

大切なノートなのに。
汚しては、いけないのに。

どうしても、涙を止められないんだ。

すると、１枚の紙が涙と一緒に落ちた。

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